1日約3万5000回も決断「人間」の知られざる能力 AIにはできない選択という行為 脳科学者・茂木健一郎さんが語る"AIの今"

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もっと極端なことを言えば、地域の再開発を進めるかどうかの選択を迫られたとき、それで経済発展するのがいいのか、それとも自然を残すのがいいのかというのも、結局のところ人間にしか選択できないことなのです。

もっと身近な小さいことで考えてみましょう。

「今読んでいる本を読み終わったら、次はどんな本を読もうか」

「今日の晩御飯は何を食べようか」

これらの選択は自分自身の価値観に基づいています。前述したように現代における選択は多岐にわたり、いわば選択過多になっています。

これは、アメリカの未来学者であるアルビン・トフラーが予言した「選択過剰(choice overload)」の概念そのものであり、自らの価値基準によって未来を選択することはAIにはできないことなのです。

ペーパーテストや偏差値によって大切な選択を自動化

ここまで述べた通り、「何を選ぶか」というのがこれからの人間らしさ、もっと言えば脳を覚醒するための大事な指標になっていくと私は考えています。なぜなら、私たちは既存の社会制度によって日常で無意識に選択してしまう機会が増えてきているからです。

YouTube やTikTok のアルゴリズムの中身というのは、ほとんどの人にとっては「ブラックボックス化」していますよね。つまり、私たちは常にただのユーザーです。ユーザー側にいるとあらゆる選択がAIのアルゴリズムによって自動化されていることになかなか気づけません。でも、その自動化した世界の中で自分は何を選ぶかという感性が今、問われているのです。

このような話をするとき、私はよく「学力観の変遷」という話をします。

日本では、ペーパーテストや偏差値という、私に言わせれば化石のような価値観によって、自分の将来を決めるような大切な選択を自動化してしまっている人がたくさんいます。

でも、すでに教育先進国では、そうしたペーパーテストや偏差値といったモノサシで大切な将来の学力を判断していないのをご存じでしょうか。

ニューラルネットワークの研究を行っており、AI研究の第一人者とみなされているジェフリー・ヒントン(2024年、ノーベル物理学賞)という人物がいます。

彼は現在、トロント大学の名誉教授を務めていますが、彼を生んだトロント大学をはじめ、カナダでは大学共通入試テストというのが一切ないことで知られていますし、アメリカでも大学入試のための「SAT」という学力テストがありましたが、近年ではこうした学力テストのスコア提出は必須でなくなりました。

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