アサヒビール、大型買収の棚ぼたを狙う真意 世界シェア1位・2位の統合にどう立ち回る?

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2015年3月期にSABミラーが計上した、出資比率58%相当のミラークアーズのEBITDA(税引き・償却前利益)は9.9億ドル(約1180億円)。ある外資系証券会社によると、直近15年間のビール業界における買収金額の平均値は「EBITDAの12倍」。これをミラークアーズに当てはめれば、同社の株式58%分の価格は約1.4兆円と試算できるという。

6月末時点でアサヒの現預金は561億円。泉谷社長が調達できるとした1兆円を加えても届かない金額だが、58%分すべては取得しないという選択肢もありうる。

買収に潜む2つの思惑

日本国内ではシェア首位のアサヒだが、逆に国内偏重が課題でもある。2014年12月期の国際事業の売上高はグループ全体の13%。キリンホールディングス(37%)やサントリーホールディングス(36%)と比べると、大きな差がついている。

部門利益も赤字が続いているだけに、米国で安定的に利益を出しているミラークアーズを傘下に入れることができれば、アサヒにとって国際事業の収益を好転させる大きなチャンスとなる。

同社がミラークアーズを手中に収めたい事情は、ほかにもある。ここにきて、ABインベブが日系ビールメーカーの買収に乗り出すのではないか、と業界関係者の間でささやかれ始めたのだ。

ABインベブは今年、都内に日本支社を開設した。すでに国内でコロナを販売しているが、日系ビールメーカー首脳は「(支社設立は)コロナの販売促進のためだけ、ということではない」とにらむ。

「外資が手をつけていない最後の市場」(野村証券の藤原悟史アナリスト)とされる日本のビール業界。ABインベブに買収されるリスクが高まった今、アサヒにとってミラークアーズの株式取得は自社を守る一手ともなりえる。

というのも、米国におけるABインベブのシェアは45%。アサヒが米国内に相応のシェアを持っていれば、仮にABインベブが買収しようとしても、独禁法に抵触するおそれが出てくるのだ。森・濱田松本法律事務所の伊藤憲二弁護士は「ABインベブが米国事業を切り離して買収する手も考えられるが、アサヒがその提案を拒否すれば敵対的買収となり、ハードルは高くなる」と見る。

ABインベブによるSABミラーの買収が実現し、ミラークアーズの株式58%が売却されることになれば、残り42%の株式を持つモルソン・クアーズを筆頭に、ハイネケン(オランダ)やカールスバーグ(デンマーク)など、世界の名だたるビールメーカーが争奪戦に乗り出すことも予想される。「ピークで辞めたい」と語ってきた泉谷社長。強豪たちを相手に、世界戦で一泡吹かせられるか。

「週刊東洋経済」2015年11月7日号<2日発売>「核心リポート05」を転載)

中山 一貴 東洋経済 記者

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なかやま かずき / Kazuki Nakayama

趣味はTwitter(@overk0823)。1991年生まれ。東京外国語大学中国語専攻卒。在学中に北京師範大学文学部へ留学。2015年、東洋経済新報社に入社。食品・小売り業界の担当記者や『会社四季報 業界地図』編集長、『週刊東洋経済』編集部、『会社四季報』編集部、「会社四季報オンライン」編集部、『米国会社四季報』編集長などを経て2023年10月から東洋経済編集部(編集者・記者、マーケティング担当)。「財新・東洋経済スタジオ」スタッフを兼任。

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