福島原発事故・井戸川裁判傍聴記・判決編(後編) 提訴から10年の訴訟はこれからも続くのか? 〝支援者〟たちとの隔たり
判決の言い渡しから約1時間半後、衆議院第2議員会館で報告集会が始まった。井戸川が〝敗戦の弁〟を述べると、狭い会議室を埋めた100人ほどの聴衆がどっと沸いた。
「本当は淡い期待も抱いていたんです。でも全部東電と国のシナリオ通り。この事故に欠けているのは水戸黄門です。悪い家老が経済産業省、悪代官が福島県庁、そして悪徳商人が東電です。でも今日の判決は『文句を言うな、井戸川は従え』という大ウソです。悪党を裁く水戸黄門がいないんです」
井戸川裁判の報告集会ではいつも、「水戸黄門」のような漫談さながらのスピーチには盛り上がるものの、安全規制や被災者政策の法制度に関する話になると静まり返る。
会場を見渡すと、見覚えのある高齢者ばかりだ。彼らは井戸川裁判だけではなく他の原発訴訟の集会にも参加している。
“支援者”すら理解していない
この日も井戸川はいつものスライドを映しながら自らの裁判の意義を説明した。何度も見聞きした内容だ。ところが10分ほどして、見たことのないスライドが表れた。タイトルは「羊と羊飼いについて」とある。
「会場の皆さんをバカにするつもりは毛頭ありません。私の裁判はウソとの闘いでした。官僚たちはマスコミを使って、『ねばならない』と国民に思い込ませて羊にしています。誰かが作ったお題目やスローガンのウソを見抜く眼力が必要です」
「俺にはホームベースがないんだよ」。判決の数日前、井戸川はそんな愚痴をこぼしていた。移り気な〝支援者〟たちに井戸川が失望しているのは明らかだった。井戸川自身が「皆さんのことではない」と前置きしたのだから仕方ないが、集まった〝支援者〟たちが「自分のこと」と思っている様子はない。しかし質疑応答の時間に移ると、〝支援者〟たちの無理解があらわになった。

高齢女性)私も双葉町(出身)です。みなさん、どんなに苦しいか分かりますか。つらかったのは港区から出ていけと言われて、高齢者に貸してくれるところがないことです。
井戸川)それはあなたが言いたいことを言っているだけで質問になっていません。
高齢女性)ごめんなさい。井戸川さんには質問はないです。
高齢男性)双葉町の復興の実態を説明してください。それから一つおまけに発言させてください。世界中で原発の回帰が始まっています。自分のことにかまけている日本人が多い。何を教訓にするか受け止め直す必要があります。
井戸川)私たちは自分の足下を固めることから始めないといけません。周りをキョロキョロ見るのではなく、自分で法と証拠を確認してください。
別の高齢女性)日本は10年経っても(毎時)20ミリシーベルトで子供たちに毒を食らわせています。これは政府による人殺し、子殺しです。そのことをぜひ伝えてください。
井戸川)準備書面に書きましたが、20ミリシーベルトというのは原子力ムラの連中が適当に並べた数字で、法律のどこにも書いていません。本筋を冷静に調べていくことが大事です。そのぐらいですね。今の質問の答えになるのは。
井戸川が精魂を込めた書面を〝支援者〟たちは読んでいない。もし読んでいたとしてもまったく理解していない。井戸川の表情に絶望の色が浮かんだ。
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