ガンダム安彦氏が「ORIGIN」に託した情念 シャア・アズナブルは何のために戦うのか

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あとジオン軍でいうと、マ・クベ(ジオン幹部)は富野氏が骨董好きという設定にした。これは僕なんかでは思いつかない。骨董が好きということは、マ・クベは文化人。世界観も人生観もしっかりしたものを持っているはず。

宇宙移民が目覚めるなんていうジオニズム(作中の架空の思想)は、彼のインテリジェンスからすれば説得力がない。単なる宇宙移民のコンプレックスにすぎないと、内心せせら笑っていたんじゃないかな。でも、彼の生き方としてやるべきことはやる。そういう風に人物像を考えると、ただの“やられキャラ”であるはずがない。

イデオロギーを議論しても仕方がない

――人物像を深掘りしたオリジンのストーリーは歴史物語のようです。歴史を題材にした漫画を描くために数多くの歴史資料を読みこんだという蓄積があるからですか。

それはわかりませんが、「機動戦士ガンダム」の内容について議論されていることについて、「それは違う」と断言することはできます。

たとえば、ギレンが唱えるジオニズムが間違っていて、シャアが言うジオニズムは正しいという見方がありますが、その違いを誰も説明できない。もちろん説明できなくて当たり前。イデオロギーなんてもともと空疎なものだから、正しいも間違いもない。議論してもしょうがないんです。

安彦良和(やすひこ よしかず)/1947年生まれ。弘前大学中退。アニメーターとして『宇宙戦艦ヤマト』などに参加。テレビアニメ『機動戦士ガンダム』ではキャラクターデザイン、作画監督を務めた(撮影:梅谷秀司)

――オリジンをきっかけに歴史に興味を持つ人が出てきたら、おすすめの本はありますか。

古事記、日本書紀は面白いですよ。神話として読むと面白いとか、古代人の感性がわかるとかいう人がいますが、そうじゃない。歴史の本です。池澤夏樹さんが古事記の現代語訳を出している。僕はまだ読んでいませんが、これは評判いいですね。

――今後のアニメのストーリーもコミックスが違う展開になる可能性は?

オリジンのストーリーは「機動戦士ガンダム」の借り物ですから。「機動戦士ガンダム」という幹を変えようとは思っていない。しかし、枝葉は変わりうると思います。

いろんなスタッフの英知を結集して、いい方向に変わるのは大歓迎。「なるほど」というアイデアは実際にありますよ。基本的にいいものは全部いただきます。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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