「心を病めてよかったね」産業医が放つ言葉の真意。「生きづらさ」を感じるのは自分が弱いからではなく"生きる力"の発露である

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「他人と過去は変えられないけれど、自分と未来は変えられる」という自己啓発的なメッセージもよく聞きますが、これも罪深い考え方と言わざるをえません。この考え方に縛られていると、無理して自分を環境に合わせようとしたり、あるいは合わせられない自分を責めたりします。

メンタルが強ければどんな環境でも乗り越えられるはず、と考える人は多いようですが、本当にそうでしょうか。皆さんに問いたいのは、不健全な環境に適応できることが健康的な生き方なのか、ということです。合わない環境でも自分を押し殺して平然と働き続ける人が、健康な人だと言えるのでしょうか。

何度でもお伝えしますが、生きづらさは環境との関係性・組み合わせで生じます。生きづらさを感じているからといって、自分を責める必要はありません。

人に備わっている「生きる力」

むしろ、生きづらさを感じ、時に「心を病む」という状態に至ることは、社会への過剰適応によって、あなたがあなたのままでいることが難しくなっていることを知らせてくれるサインです。

産業医面談で「自分のペースで仕事ができなかったことがしんどかった」という訴えをとてもよく聞きます。「人のペースに合わせて仕事をしたい」という話は聞いたことがありません。

人は誰しも自分のペースを持っていて、自分のペースで生きたいという欲求があります。人や物事との距離感や関わり方、何にこだわり何を大事にするかも、人それぞれ違います。

生き物である人間にとって、できるだけ自然体で生きることが最適な生き方であるはずです。生きづらさを感じる力、「心を病む力」は、自然のままに、ありのままに生きられていない現状に警笛を鳴らし、より自分のままで生きられるよう、環境との関わりを見直すきっかけを与えてくれます。つまり、社会の中でより自分らしく生きようとする力と言えるのです。

ですから、私はいつも面談者にこうお伝えしています。

「あなたが悩んでいることは、よりよく生きようとする気持ちの表れですし、あなたが感じている不安、焦燥感、孤独感、体調不良はすべて、あなたが持つ『生きる力』ですよ。社会の中で自分らしく生きていこうとする力があなたにはあるんですね」

このように考えると、生きづらさが単なる憂うつな厄介者から、未来を照らす小さな光に見えてきませんか? 生きづらさを抱える自分のことも、愛おしい存在に思えてくるのではないでしょうか。

上谷実礼 医学博士

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うえたに みれい / Mirei Uetani

千葉大学医学部医学科卒業。労働衛生コンサルタント(保健衛生)。公認心理師。千葉大学博士(医学)。千葉大学大学院非常勤講師。生活習慣・生き方と健康との関係に興味を持ち、社会医学系研究室で研究・教育に従事したのち、産業医として独立。のべ1万人以上の面談・カウンセリング実績。アドラー心理学・ゲシュタルト療法・ポリヴェーガル理論が専門。著書に『ミレイ先生のアドラー流“勇気づけ”保健指導』『ミレイ先生のアドラー流勇気づけメンタルヘルスサポート』(ともにメディカ出版)などがある。

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