一人っ子政策廃止10年の中国、育児手当・幼稚園無償化で《出産容認から"支援"に舵》。"産み控え"の氷河期世代、日本と異なる事情とは?
手当支給が3歳までであることについて、若者からは「教育費にお金がかかるのは小学生からだから、全然足りない」という声が多いものの、中国には3歳未満の子どもが3000万人近くおり、育児手当導入による年間の財政支出は1000億元(約2兆600億円)を超える。
それなりの規模の財政支出をこの時期に決断したもう1つの理由は長引く景気低迷だ。
中国育児コスト報告書は出産意欲を妨げる要因を特定するため、費用だけでなく時間と機会の面からも男女別のコストを算出。子どもが生まれてから4歳になるまでに特に女性の労働時間が平均2106時間減ること、労働時間の減少が収入とキャリアにおける競争力の低下に直結することも示した。
一昔前まで結婚・出産を機に女性が離職することが珍しくなかった日本と違い、中国は長い間、共働きの社会だ。
ハイセンスジャパンの李前社長は「中国は貧しかったから、夫婦でお金を稼いで資産を形成し子どもを育てるのが当たり前で、女性が出世や昇給を目指すこともごく普通のことだった。さらに一人っ子政策で教育の男女格差がなくなり、女性のキャリア志向がより強まった」と解説する。
出産や育児でキャリアの一時的な減速を迫られやすい女性は、その前に学歴やスキルを高め、市場価値を上げようとする傾向がある。近年の景気低迷で雇用環境が悪化し、中国は空前の就職難、転職難だ。男女ともにキャリア防衛意識が高まり、結婚・出産を先送りしようというムードも強まっている。


「氷河期世代」に危機感
現在の中国の雇用関係は日本のバブル崩壊後の就職氷河期に酷似していると、両国を知る多くの人が指摘する。
日本は氷河期世代が経済的な基盤を得られず、政府の子育て支援も手薄だったことから、結婚や子どもを持つタイミングを逸し、少子化を不可逆的なものにしたと指摘されることが多い。少子化は労働力不足と国としての競争力低下に直結する。
中国政府にとって、日本経済や社会は未来を描くための重要な参考材料だ。日本の二の舞いは避けたいだろう。
中国育児コスト報告書は「現金支給、税・保険料の減免、住宅取得支援、託児施設の拡充の4施策によって出生率は30~50%上昇する」と提言した。
報告書をまとめた育媧人口研究は、2021年に著名人口学者の梁建章氏らが設立した「人口、出産と育児」に特化したシンクタンクで、政府の少子化対策には同報告書の提言が多く取り入れられている。
しかし、目論見通りに出生率が上昇すると考えている人は驚くほど少ない。
上海で働く30代後半の女性は、政府の育児支援策について「農村の人はたくさん産むでしょう。けれど自分のことで必死な都市部の若者にとって、子を持つことは相変わらず割に合わないことです。貧乏になる選択を誰がするんですか」と冷ややかだ。1年前に20万円で買ったネコが子どもの代わりだと言う。
日本の氷河期世代は必要な支援がなく、産みたくても産めなかった。
中国の都市部の氷河期世代はそもそも産む意欲がなく、支援も求めていない。きょうだいがいないことが当たり前の環境で育ち、「中国は人口が多すぎる」と教育され、国の成長の果実を享受する一方で激しい競争にも疲れている彼らは、育児コストとペットの飼育コストを天秤にかける。
中国の専門家は「支援はもちろんだが、出産文化の再構築が必要」と指摘する。一人っ子政策の後遺症は重い。
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