一人っ子政策廃止10年の中国、育児手当・幼稚園無償化で《出産容認から"支援"に舵》。"産み控え"の氷河期世代、日本と異なる事情とは?

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中国家電大手ハイセンスの日本法人「ハイセンスジャパン」の李文麗前社長は筆者の過去の取材で、「中国は一人っ子政策が長く、一つの家庭にこの子しかいないという状況なので、男女関係なく一人の子に教育を目いっぱい受けさせて、仕事も思う存分やってほしいという考え方になる」と話した。

参考記事:「管理職目指す女性が少ない」日本が直面する現実 DeNA南場会長とハイセンスジャパン李社長対談

その結果「子の教育こそ最大の投資」という価値観が広がり、超学歴社会が形成され、家庭が支出する教育費も高騰した。

「教育費がかかるので子ども一人でも厳しい」という若者の訴えに対し、中国政府は2021年、「双減」と呼ばれる学習塾規制で解決しようとした。塾を潰せば教育費は大幅に減少するという単純な発想で、習近平政権が推進する格差是正政策「共同富裕」にも合致する。

ショッピングセンター
ショッピングセンター
四川省のショッピングセンター
四川省のショッピングセンターで子どもを遊ばせたり、習い事をさせたりする中国人家族ら(写真:筆者撮影)

一方で教育熱心な家庭の最終目的である大学入試改革には手をつけなかった。

大学入試と学歴社会が変わらないなら、親は教育投資を減らせない。規制をかいくぐって家庭教師を雇ったり、オンラインの塾を利用して子どもの学習環境を確保した。教育コストはかえって上昇し、教育格差も広がったとも言われている。

裏付けもある。シンクタンクの育媧人口研究が2024年2月に発表した「中国育児コスト報告書」によると、1世帯当たりの子どもの養育コストは0~17歳までで平均53.8万元(約1100万円)、大学卒業までは約68万元(約1400万円)だった。

上海と北京の17歳までの養育コストはそれぞれ平均101万元(約2100万円)、同93.6万元(約1900万円)に達した。

報告書は、中国の家庭が子どもを18歳まで育てるコストが1人当たりGDPの6.3倍に達し、世界最高の水準に近いとも指摘した(同報告書で日本は4.26倍だった)。

全国の平均育児コストが2年間で100万円以上(5万3000元)上昇したことも報告書から明らかになった。塾規制が教育費減少に何の効果もなかったどころか、政府の理想とは逆に作用してしまったのだ。

結婚・出産よりキャリア

育児手当導入を発表した記者会見で、国家衛生健康委員会(日本の厚生労働省に相当)の責任者らは「地方で導入されている手当のほとんどは第2子、第3子が対象だが、中国で産まれる子どもの半分以上が第1子であり、第1子に手当を支給することで、家庭の出産経験をよいものにし、再び出産を考えてもらいたい」と説明し、先行導入した地方での効果を研究していたことも明かした。

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