【産業天気図・鉄道/バス】実態不変だが、運輸、不動産反落で2007年度は減益、「曇り」に

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鉄道業界の2007年度は基調に大きな変化が現れたわけではないが、収益動向からはほぼ全社が営業減益予想となり、「曇り」の状況といえそうだ。
 その前段となる2006年度の実績は、私鉄大手13社(非上場の西武ホールディングスを除き、阪急阪神ホールディングス<9042.東証>は旧阪神電鉄を期初から経営統合したとして計算)合計で、売上高7兆1953億円(前期比0.1%増)、営業利益5700億円(同4.7%増)、経常利益4794億円(同11.1%増)、純利益2702億円(同34.1%増)と、売上高の伸びは鈍いが、利益的には好調だった。
 明確な減収減益となったのは、愛知万博特需の反動減が現れた名古屋鉄道<9048.東証>のみで、東京急行電鉄<9005.東証>の営業減益は目黒駅地下化工事の終了に伴う大型除却費が発生したためだ。
 主力の鉄道事業では、関西4社の輸送人員漸減傾向は止まらなかったが、つくばエクスプレスの影響も吸収して10数年ぶりに本格的に輸送人員増に転じた東武鉄道<9001.東証>をはじめ、関東7社と名鉄、西日本鉄道<9031.東証>の各社は輸送人員が増加した。景気回復によって、通勤定期を中心に定期の増加、マンション分譲等による沿線人口の増加、個人消費・レジャー回復による定期外の増加などがその要因である。収益のもう一つの柱である不動産販売も好調で、京浜急行電鉄<9006.東証>、京阪電気鉄道<9045.東証>、東武などは大型物件の販売が寄与した。
 純益の伸びが大きいのは、前々期に多かった減損処理の減少や、東武の特殊要因による見掛け純益急増、持分法対象の東急建設<1720.東証>株の下落に伴う税負担減で期末に”思わぬ”大幅増益となった東急電鉄などが、その主因である。
 上場JR3社(東日本旅客鉄道<9020.東証>、西日本旅客鉄道<9021.東証>、東海旅客鉄道<9022.東証>)合計の2006年度業績は、売上高5兆4115億円(同2.1%増)、営業利益9659億円(同3.3%増)、経常利益6408億円(同8.6%増)、純利益3698億円(同13.3%増)と、JR東日本を中心に極めて順調だった。愛知万博の反動減が見込まれたJR東海も期後半の東海道新幹線のがんばりで、増収を達成していた。
 次に、今2007年度業績について、『会社四季報』07年夏号では、13社合計で売上高7兆1313億円(同0.9%減)、営業利益5175億円(同9.2%減)、経常利益4083億円(同14.8減)、純利益2344億円(同13.3%減)と予想している。売上高では、名鉄、西鉄、南海電気鉄道<9044.東証>、小田急電鉄<9007.東証>の4社が増収。東急電鉄、京王電鉄<9008.東証>、京成電鉄<9009.東証>の3社が横ばい、他6社が減収予想である。阪急阪神ホールディングスに関しては、阪急百貨店と阪神百貨店の経営統合に伴い、阪神百貨店が10月に子会社から外れることで560億円分の減収となる特殊要因が含まれている。
 営業利益では、南海電鉄を除く、12社で減益を予想している。しかし、だからといって、業界環境の悪化を予想しているわけではない。関西4社は今期も輸送人員の漸減傾向を見込んでいるが、関東7社ほかは引き続き、小幅増から微増基調を予想している。営業減益要因は大きくいって2つ。1つは関東でのパスモ導入に伴う減価償却増や、制度改正に伴う償却増で運輸部門の利益が減退すること。もう1つは前期にあった大型物件の反動減で不動産が減益となるためだ。もっとも、東急電鉄のように含み益のある田園都市線沿線の不動産販売を抑制し、含みを温存するケースもある。
 ただ、鉄道会社は期初予想において、経費を多めに見たり、慎重な前提を置くことで低い予想数字を出す傾向が強い。前06年度でも、期初の13社ベースの予想は営業減益予想だった。06年度の実績が、06年度の期初予想値をどれだけ上回ったかを見ると、売上高で0.3%、営業利益で11.7%、経常利益で20.0%、純利益で14.7%上回って着地した。
 こうした実績を踏まえて、また各社への取材や予想数字の前提を検討した結果、『四季報』では07年度業績予想について、東武、相模鉄道<9003.東証>、小田急、京王、京成、阪急阪神、京阪、西鉄の8社は会社予想値を上回った業績予想数字を掲げている。その上乗せ分の合計額は、売上高で111億円、営業利益で89億円、経常利益で97億円、純利益で40億円になる。それでもまだ慎重に見ているといえそうで、景気情勢の急変がない限り、今期も後半にかけて業績予想が増額されるケースが出てくると見込まれる。ただ、前期のように全体で営業増益に転じるかどうかはわからない。
 JR3社の2007年度予想は、『四季報』では売上高で5兆4600億円(同0.9%増)、営業利益9360億円(同3.1%減)、経常利益6415億円(同0.1%増)、純利益3748億円(同1.4%増)と見ている。東京駅再開発ビルなどが寄与するJR東日本をはじめ、3社とも増収は確保するが、減価償却増などでJR西日本、JR東海は営業減益予想、JR東日本は会社は横ばい予想だが、四季報では小幅営業増益を予想している。JR東日本では一部の見通しについて、慎重な前提を認めているためだ。JR3社も前期実績は期初予想値を売上高で1.9%、営業利益で8.0%、経常利益で10.3%、純利益で10.2%上回っていた。
 鉄道業界の現状は見掛けは減益ながら、収益実態は高原状態を維持しているといえるだろう。そうした中で、人口減少社会で生き残るために、各社とも沿線価値の向上に向けて走り出している。有利子負債の減少や増加抑制に努めながら、鉄道の安全投資や能力増強、駅を中心とした再開発や関連事業への投資拡大に踏み込んでいる。JR東日本は東京駅再開発が一段落すれば、次には渋谷、新宿駅南口、品川車両基地などの大型再開発案件が控えている。東急は渋谷再開発、二子玉川、たまプラーザなど、東武は新東京タワーを核とした業平橋・押上地区再開発に力を入れている。ともに2010年度開業に向けて、羽田空港再拡張に備える京急、成田新高速鉄道を運営する京成も次の成長に向けて余念がない。
【中川和彦記者】

(株)東洋経済新報社 四季報オンライン編集部

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