未来学者の未来予測と、経営学者の未来予測はどこが違うのか? 未来に関心のある経営者が大局を知るべき理由
多くの産業を巻き込む「大波」が背景を成すことはあっても、複数の業界だけを襲う「中波」や特定の業界だけを襲う「小波」、そして襲われたと誰も気づかないような「さざ波」が真の戦略機会を提供します。
それらを私は「時機」と名付けて、2024年4月に刊行した実務家向けの教科書『実戦のための経営戦略論』(東洋経済新報社)で、時機については大小より、早く捉えることが肝心と説きました。
勝ち目のない時機には手を出さない
時機を人より早く捉えたければ、過去事例をベースにした直観的な認識に頼るのがオーソドックスなアプローチです。
『実戦のための経営戦略論』では吟味するケースの多様性を大きくとったので、本書ではケースを自動車1つに絞り、その代わり解像度を引き上げながら通史を見渡すことにしました。
ここで時機のありかに関する感性を磨いて、自らの周りに生起する時機に対して感度よく反応できるようになれば、狙いは成就します。
狙いは、もう1つあります。それが「大局」の読解です。2004年に刊行した『戦略不全の論理』(東洋経済新報社)で日本企業の慢性的な低収益率を問題視しましたが、その後も考え続けるうちに、問題の根因は勝ち筋のない事業を見切れないところにあると気づきました。
存在しない蜃気楼のような時機を列挙して望みを託す人々に対抗しようと思えば、負の大局観に頼るしかありません。
そう考えて、本書では自動車通史を語りながら要所で一歩か二歩引いて、敗者の負ける構造的な理由をハイライトすることにしました。こうして未来の読み解き方に対して正負両面から迫れば、時機の蜃気楼に惑わされることも減るだろうというわけです。
通史を、『明鏡国語辞典』は「一時代・一地域に限らず、全時代・全地域を総合的に叙述した歴史」と解釈しますが、ここでは隣接業界も視野に取り込むよう努めました。
経営者が持つべき大局観を具体的に描き出すと同時に、それが鋭利な時機読解を導くと示したかったからです。戦略や時機や大局に言及する際に臆することなく推し量る点も、私独自のアプローチと言ってよいかと思います。
戦略は、核心部に近づけば近づくほど、当事者は口を閉ざすものと相場が決まっています。そこを研究者が状況証拠に基づいて推し量らなければ、「戦略論」など語れるはずはありません。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら