国税庁とのバトルが激化、狭まる“富裕層包囲網”。ルールどおり申告しても待ったがかかるケース続出

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

この裁判は、相続人が父親からタワーマンション2室を相続し、路線価を基に評価額を約3億3000万円としたうえで、購入時の借り入れと相殺して相続税を0円で申告。これに対し国税当局は、不動産鑑定に基づいて評価額を約12億7000万円とし、総則6項に基づき約3億円を追徴課税した。

一、二審が、「路線価を基に評価すると税負担の公平を著しく害するのは明らかで追徴課税は適法」と判断したため、これを不服とした相続人が最高裁に上告したのだ。

最高裁は、路線価に基づく評価と実勢価格に大きな差があるだけでは「相続税法に反しているとはいえない」と指摘した。そのうえで、相続人が近い将来の相続で税負担を減らすものだと知っていた点を重視。借入金で不動産を購入することができない納税者との間に「看過しがたい不均衡を生じさせ租税負担の公平に反する」として、総則6項の適用を認めたのだ。

つまり「租税負担の公平に反するというべき事情がある場合」には総則6項の適用を追認するとして、“お墨付き”を与えたわけだ。これを受けて国税庁は事務運営指針を出し、積極的な適用に乗り出している。

国税当局が敗訴

伝家の宝刀は、やはり時価のない未上場株式に対しても抜かれている。その1つが、東北地方で薬局経営などを手がける非上場企業の株式の評価額についてだ。

代表が亡くなった後、相続人は基本通達にのっとり1株8186円と評価して納税した。これに対し国税当局は、専門会社に価格算定を依頼して1株8万0373円が妥当とし、総則6項を適用して約4億円を追徴課税した。相続人がこれを不服とし提訴したものだ。

実は代表は生前、株を他社に売却しようと考え、銀行をアドバイザーにつけて1株10万5068円と算定していた。ところが正式な契約が成立する前に代表が急逝したため、妻が交渉を引き継ぎこの価格で売却した。それに対し相続税では基本通達に基づいて株式を評価し、売却額の12分の1以下で申告したのだ。

この価格差が租税回避行為に当たるかが注目されたが、東京高等裁判所は「評価額を下げるような行為はなく、相続人らが税負担を免れさせる行為がない以上、不公平であると判断する余地はない」と判断し、国税当局は敗訴した。

しかし、非上場の資産管理会社の株式評価をめぐる別の裁判では、一審こそ国税当局が敗れたものの、東京高裁では逆転勝訴を収めている。ポイントは、証券会社と相談のうえで相続直前に相続財産を現金から株式に変更した点。この行為が相続財産の評価を引き下げて税負担を免れる行為に当たり、不公平であると判断されたのだ。

次ページはこちら
関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事