イルカ、クマノミ、クラゲ…水族館の海洋生物「へぇー」と思う"意外な共通項"――海洋生物学者が解説する「水族館が100倍楽しめる」話

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逆に、動きの緩慢な生物、それこそイソギンチャクやヒトデなんかに、巨大なスペースをあてがったって完全に無駄である。水をきれいに保てさえすれば、小さな水槽で十分だ。当然、水族館にとって飼いやすいのは、後者の生物たちである。

さっきから、展示の話を散々語ってきたが、本題はここからだ。

バックヤードの予備水槽―水族館の“控え組”

実は、水族館には、“展示されない”生物がいる。

……は? と思うだろう。生き物を見せるための水族館に、見せない生物がいるの? とね。

ここで、水族館の裏側の話が本格的に出てくるのだ。この、客が入らないスペース(いわゆる、STAFF ONLYと書かれた扉の向こう)を“バックヤード”と呼ぶ。

水族館のバックヤードには、さまざまな設備がある。例えば、餌をつくる調理場や、巨大な冷凍庫。そして、水をきれいにする濾過(ろか)装置。それと並んで非常に大事な設備があるのだ。それが「予備水槽」である!

予備水槽とは、お客さんに生物を見せる「展示水槽」と対比してこう呼ばれるのだが、客の目に触れないバックヤードにある水槽のこと。

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ほとんどの水族館において、ここに、展示に出さない生物が収容されている。場合によってはなんと、展示水槽より、予備水槽の生物の方が多い水族館もある。

しかし、よく考えるとおかしい話だ。だって、客の目に触れない生物だって世話は必要で、餌も食うわけ。辛辣に言えば、“ビタ一文稼げない生き物”がである。

こんなごく潰しの奴ら、なぜ飼ってるの? と思った方がいるかもしれない。しかし、あえて言おう。この予備水槽こそ、水族館の生命線そのものなのだと!

水族館の一部は、バックヤードの一部を無料公開している。また、有料の「バックヤードツアー」なんてのがある園館もある。

これは、本来水族館スタッフしか入れないバックヤードにお客さんを招き入れ、あれこれ見学してもらうという企画だ。非常に貴重な機会なので、見かけたらぜひ、参加してみると良いぞ!

泉 貴人 海洋生物学者

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いずみ たかと / Takato Izumi

1991年、千葉県船橋市生まれ。福山大学生命工学部・海洋生物科学科講師、海洋系統分類学研究室主宰。

東京大学理学部生物学科在籍時に、新種であるテンプライソギンチャクを命名したことをきっかけに分類学の道を志す。2020年に同大大学院理学系研究科博士課程を修了。日本学術振興会・特別研究員(琉球大学)を経て、2022年より現職。イソギンチャクの新種発見数、日本人歴代トップ(24種)。東京大学落語研究会で磨いた話術を活かして、YouTubeチャンネル「水族館マスター・クラゲさんラボ」にて精力的にアウトリーチ活動を行う。X(旧Twitter)では「Dr.クラゲさん」(@DrKuragesan)として発信。

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