卒業後は大手証券会社に就職。両親はすでに離婚しており、再び家族でマンションで暮らすことはなかったが、それぞれに仕送りをしつつ、自身も新たな家族を作ることを目指して婚活中だ。
「結婚直前までいった女性がいたんです。けれど、『毎月1万5000円ずつ奨学金を返している』と話したら、『借金がある人とは結婚できない』と言われてフラれてしまいました。世間の奨学金へのイメージは、いまだに悪いんだなと実感しましたね」
“失われた30年”で、奨学金返済はより重い負担に
かつて奨学金は「苦学生のもの」という印象が強かった。しかし、日本学生支援機構(JASSO)の「令和4年度学生生活調査」によれば、大学生の約2人に1人がなんらかの奨学金を受給または貸与されている。
実際、「奨学金を受けている」と答えた割合は、令和2年度の49.6%から令和4年度には55.0%へと上昇。大学の学費が高騰を続ける今、この比率はさらに増えるとみられている。もはや奨学金は、一般的な進学手段のひとつなのだ。
『アメリカの授業料と奨学金研究の展開』(東信堂)などの著書があり、教育の機会均等や所得・教育格差、さらに日本・欧州・北米の奨学金制度を専門とする桜美林大学特任教授の小林雅之氏は、こう語る。
「奨学金を借りること自体が学生にとって負担であるのは確かです。ただ、金融機関のローンなどと比べると、かなり有利な条件で借りられます。
また、従来の貸与型奨学金だけではなく、2020年度から高等教育の修学支援新制度として、授業料減免と返済不要の給付型奨学金が拡充されたのは大きな前進です」
とはいえ、貸与型奨学金は、10代の若者が借りるには、金額が大きいのは事実だ。奨学金の平均借入総額は学生ひとりあたり313万円にのぼる。10代で何百万円もの借金を抱えて社会に出た若者が、その返済に苦しむケースは少なくない。
「サラリーマンの可処分所得は伸び悩んでいます。バブル崩壊後の“失われた30年”により、所得はほとんど増えていません。それ以前は、ある程度所得が伸びていたため、奨学金の返済はそれほど重い負担ではなかったんです。
当時は大企業を中心に“終身雇用”と“年功序列”が一般的で、一度就職すれば長く安定して働けるという労働環境がありました。そのため、奨学金の返済の見通しも立てやすかったんです。ところが1990年代以降、非正規雇用やフリーターが増え、収入が不安定になってきました。その結果、『毎月1万円の返済でも厳しい』という人が増えているのが、今の現実です」(同)
無料会員登録はこちら
ログインはこちら