元小結「舞の海」が野村証券らを訴えた事件で浮かんできた令和の知恵者の正体。ベテラン国税OBを驚かせた「節税」スキーム

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ボーノはその後、ネクスト社が新たに顧客を獲得した対価として、企業側が業務委託費の名目で提供した資金にあらかじめ約束していた利息分を上乗せし、継続手数料の名目で月額均等払いするのである。

首藤被告の説明について「理解が難しかった」と振り返る舞の海氏 (撮影/尾形文繁)

首藤被告は2019年以降、著名な税理士や公認会計士などを通じてこのスキームを企業経営者に売り込み、約300社から約150億円を引き出したとみられている。

このスキームはしかし当然のごとく破綻した。ボーノが電気料金削減サービスを実施しているという説明も虚偽だった。首藤被告が企業から引き出した資金の返還は、ウクライナ戦争の余波などで2022年9月以降順次ストップ。さらに同年11月に査察に入った東京国税局からは、「(企業による)ネクスト社への業務委託費の支払いは実際には貸し付けで、仮装隠ぺいに当たる」と指摘されることになった。

典型的なポンジスキーム

2024年2月、首藤被告は脱税の疑いで東京地検特捜部に逮捕・起訴され、同年7月の初公判で罪を全面的に認めた。その後の公判では、企業から新たに引き出した資金は先に契約していた企業への返還金に充てていたなどと証言し、このスキームが典型的なポンジスキームであったことが明らかになった。

こうした首藤被告の“節税”スキームに資金を提供した企業経営者の中に、現役時代に「技のデパート」と呼ばれ、現在はNHKの大相撲解説者として活躍する元小結の舞の海秀平氏(57)の名前があった。

業界最大手の野村証券の顧客だった舞の海氏は2022年3月、同証券を通じてコンサルティング会社「南青山FAS」(現・南青山アドバイザリーグループ、東京都港区、仙石実代表取締役)から首藤被告を紹介され、同氏が共同代表を務める「舞の海カンパニー」(東京都墨田区)はネクスト社に業務委託費として計約6600万円を支払った。

大手町にある野村証券本社。舞の海氏はここで首藤氏らと面会した(編集部撮影)

ところが間もなくボーノグループが破綻。舞の海カンパニーは提供した資金のうち約6200万円が返還されなかっただけでなく、2022年5月期の法人税などの修正申告も迫られ、加算税や延滞税など約253万円を追徴された。舞の海氏は現在、野村証券と南青山FASを相手取って計6453万円の損害賠償を求める訴訟を提起している。

コロナ禍収束後の社会経済活動の復調や、円安進行による海外投資マネーの急増などで地価の上昇幅は年々拡大しており、建設や不動産の業績は好調に推移する。それに伴って“節税”をうたい文句に営業活動するコンサルタント=脱税請負人が増えている。首藤被告の摘発はこうした傾向に当局が警鐘を鳴らしたものと考えられる。

本記事の詳報版は、東洋経済オンライン有料版記事「舞の海を突き落とした「節税」のワナ。約300社の企業経営者から150億円を集めたスキームはほぼ最初から空っぽだった」でご覧いただけます。事件で首藤被告と共謀したとして有罪となった複数の会社経営者の公判を傍聴してきた筆者が、刑事事件化を免れた舞の海氏のケースも合わせて、同被告のスキームの全容に迫ります。
田中 周紀 ジャーナリスト

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たなか ちかき / Chikaki Tanaka

1961年生まれ。上智大学文学部史学科卒。共同通信社で1995~97年、テレビ朝日で2006~10年に国税当局を担当。著書に『東京医大「不正入試」事件 特捜検察に狙われた文科省幹部父と息子の闘い』(講談社)『実録 脱税の手口』(文春新書)『巨悪を許すな!国税記者の事件簿』(講談社+α文庫)など。話題作となった『野村證券第2事業法人部』(横尾宣政著、講談社+α文庫)の取材・構成も手掛けた。

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