貿易赤字になっても日本に危機はこない--リチャード・カッツ
日本は2011年に200億ドルの貿易赤字を記録した。日本が貿易赤字に陥ったのはほぼ半世紀ぶりである。
これは大きな構造変化の表れであり、日本もやがては、欧州が現在直面しているような危機にさらされやすくなるだろう。しかし、経常収支が赤字に転じるまでには意外に時間がかかりそうだ。少なくとも10年以上はかかる可能性が高い。したがって、日本がギリシャやスペインの二の舞いを避けるために増税を急ぐ理由はない。日本には、もっと穏当なやり方で財政赤字に対処する時間的余裕がある。
今のところ、ギリシャなどの国々を危機に陥らせた国際資本の逃避という脅威に日本がさらされる可能性は、非常に小さい。なぜなら、日本の経常収支は1230億ドルもの黒字を維持しているからだ。
経常黒字は、日本がモノとサービスの取引で稼いだ黒字額と海外投資で得た純所得との合計額である。07年から10年までの期間を見ると、経常黒字の4分の3は海外からの純所得(所得収支の黒字)によるものだ。危機に直面している欧州諸国は、どの国も双子の赤字を抱えていた。ギリシャでは、経常赤字が過去数年間GDPの10%に達していたため、資本逃避の脅威にさらされ、金利が急上昇した。
日本では現在、構造的な変化が進行中だ。その理由としては、原子炉の停止による燃料輸入の増加、燃料価格の上昇、円安の終焉、輸出産業の海外生産拡大、韓国企業との競争などが挙げられる。
たとえば、自動車産業においては、日本から輸出する車の2・5倍に相当する台数を海外で生産・販売している。空洞化により自動車がもたらす貿易黒字が減っていくと、貿易黒字全体が赤字に転じることになる。また、エレクトロニクス産業の輸出は00年の水準を37%下回っており、この業界でも海外移転が急速に進んでいる。