博士課程への生活費支援「日本人に限定・留学生は除外」が国益を損なう理由。そもそも“給与が出る”世界のスタンダードから日本は劣後

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文科省でJ-RISEを所管する国際研究開発政策課の担当者に指摘すると、「今回の3年間33億円で(SPRINGの見直しを)代替できるとは思っていない」と認めたうえで、「(トランプ政権の政策に伴う)アメリカからの人材流出に対し、ヨーロッパなどでは国を挙げて獲得に乗り出している。日本としても乗り遅れないため、緊急的に大学ファンドの運用益を活用するものだ」とし、あくまでも一時的な施策であると説明する。

また、前出の高見氏は、「今は競争的資金(国が審査を経て大学などの研究機関に提供する研究費)も増やしてきている。これからはPI(研究室の主宰者)が資金を取ってきて、その中から博士課程の学生をリサーチアシスタントとして雇用するアメリカ型のような流れが広がっていくと思う。そうなるのが健全だ」とも話す。

だが、もともと人件費込みで制度設計されているアメリカの研究費と、そうではない日本の研究費では額がまったく異なるため、現実味は薄そうだ。

やはり現状では、留学生が日本の博士課程に進学するうえでの経済的サポートは十分に整備されているとはいえない。そのような中でSPRINGの生活費支援から留学生を排除する見直しの決定は、日本が世界的な人材獲得競争で、いま以上に不利になりかねない選択をしたといえるだろう。

むしろ中国を利する可能性

なお、SPRINGをめぐる議論が大きく吹きあがった裏には、受給者全体の3割を占める中国への強い警戒感がある。自民党の有村氏も、SPRINGの変更の端緒となった3月の国会での質疑は中国への警戒論から始め、その関連でSPRINGの実態に切り込んでいた。

しかし、留学生への生活費支援をやめることは、むしろ中国を利する可能性がある。

中国の有力大学のある日本人教授は、「近年は米中関係の悪化もあってアメリカへ留学する教え子が減る中、中国国内で進学する学生が増え、研究レベルの向上に寄与している。一方、中国での進学競争激化に伴い、優秀な学生であっても中国ではなく、地理的に近くてまだまだレベルの高い大学がある日本をあえて選ぶ学生も、無視できない数で増えている。その背景にはSPRINGの存在もある。だが、日本が留学生への支援をなくせば、生活費支援のある中国で進学する学生も必然的に増えるだろう」と語る。中国の博士課程では基本的に給与や奨学金が出ており、寮費や学費も低廉だ。

SPRINGの見直しによって中国から日本への優秀な学生の流出が減れば、中国の研究人材強化を逆にアシストするという皮肉な結果にもつながりかねない。

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奥田 貫 東洋経済 記者

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おくだ とおる / Toru Okuda

神奈川県横浜市出身。横浜緑ヶ丘高校、早稲田大学法学部卒業後、朝日新聞社に入り経済部で民間企業や省庁などの取材を担当。2018年1月に東洋経済新報社に入社。

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