まず、2023年の春闘から、顕著な賃上げが行われた。生産性が上昇していないにもかかわらず賃上げを行うには、企業利益を圧縮するか、賃上げ分を販売価格に転嫁するしかない。ところが企業利益は、零細企業を除けば、かなり顕著に増加した。したがって、転嫁によって賃上げが行われたと考えられる。
転嫁は最終財の価格を上昇させた。このため、消費者物価が高騰したのである。
賃金の上昇が転嫁によって行われていることは、次のような問題を引き起こす。
第1に、大企業ほど転嫁が容易なので、大企業ほど賃金の伸びが高くなる。第2に、名目賃金の引き上げが物価上昇を招くので、実質賃金が上昇しない。実際、毎月勤労統計調査によれば、実質賃金の低下が続いている。第3に、賃金引き上げの恩恵に浴することができない人々の実質所得が減少する。
それにもかかわらず、「賃金が上昇し、物価も上昇する」という状況は、「賃金と物価の好循環」であると評価されている。政府も日銀も、経済界も労働組合も、そうした評価をしている。
しかし、これは「悪循環」なのだ。1970年代のオイルショックの際にイギリスが陥った病である。日本は、いまやこの悪循環過程に入ってしまった。
物価対策も参院選の争点も見当違い
以上で述べたことに対する政府や政治の反応は、極めて不十分だ。
まず、現在の政府の物価対策は、ガソリン代や電気・ガス代など、主として海外のエネルギー価格上昇に対応するものになっている。確かに2022年頃の状況は、そうした要因によって物価が上昇した。しかし、現在の状況はまったく異なるものになっているので、それに対応して物価対策を根本から考え直す必要がある。
また、参議院選挙の争点も見当違いだ。最大の争点は、野党が主張する消費税減税なのか、それとも与党が主張する一時給付金なのかになっている。しかし、これらはいずれも物価上昇の原因に手をつけるものではないので、物価高騰に対して何の効果もない。
むしろ、消費を増やすことによって物価上昇を促進させる効果を持つ。こうして、賃金と物価の悪循環過程は加速することになるだろう。
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