テレサ・テンはなぜ「台湾人」と自分のことを言わなかったのか、中国人、台湾人とアイデンティティーで悩む台湾芸能人の胸の内

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だが、中国で活動する台湾出身の芸能人には彼女たちのような「外省人」ばかりではない。もちろん「本省人」もいるわけだ。

バッシングの対象となるのは「外省人」「本省人」を問わない。「〇〇人」発言には、アイデンティティーの発露の場合もあればファンへのリップサービスだとわかる場合もあり、さまざまな要因がある。

韓国のガールズグループTWICEのメンバーで、台湾出身のツウィ(周子瑜)さんは、台湾の旗を持っていたことで台湾独立分子とみなされ、中国人から激しいバッシングを受けた。

TWICE、ブルーノ・マーズさんも…

彼女は追い込まれて、「私は中国人です」と謝罪した。このツウィさんの謝罪は、台湾で中国に対する反発をかき立て、当時行われていた総統選挙で、民進党の蔡英文さんの当選を一定程度、後押ししたと考えられている。

逆に、日本でもファンが多い台湾の人気バンド、メイデイ(五月天)は、中国の北京市でのコンサートで、「私たちは中国人です。北京に来たら必ず北京ダックを食べます」と発言したことで台湾の人たちから激しいバッシングを受けた。

そして、こうしたバッシングを受けるのは、台湾の芸能人に限らない。外国人でもこの対立に巻き込まれることがある。

アメリカの人気歌手のブルーノ・マーズさんが台湾南部の高雄市でコンサートを開催した時、SNSに英語で「Thank You Taiwan」という感謝の言葉と共に、台湾の旗を掲載した。それと同時に、中国のSNSには「謝謝中国台湾」(ありがとう中国台湾)と、中国語でコメントした。

台湾と中国の両方のファンに気を遣ったことがわかるのだが、そんなに甘い話ではなかった。台湾の旗が掲載されているSNSを見つけた中国人が抗議を始め、結局、旗は削除され、「Taiwan」の部分は開催都市の高雄に変更された。

中国人がターゲットとなることもある。バッシングではないが、中国のヒップホップの歌手である王以太さんは、台湾の台北市でコンサートを予定していて、その宣伝に「次は中国台北だ」と書いたところ、民進党政権下の台湾当局は「台湾の法律に違反している」として王以太さんの台湾への渡航を許可しなかった。「中国台北」という表現は、台湾が中国の一部であることを意味しているのだ。

日本では相変わらず、真偽のほどがわからない「台湾有事」論議が盛んだ。しかし、台湾と中国の間では水面下で庶民による感情的なバトルが繰り広げられている。長期的な政治的対立は、双方の庶民の相手に対する反感を深めている。こうした子どもじみたけんかをやめさせる知恵は双方どちらにもないのだろうか。

「誰もきっとわかり合えるその日が来ることを信じて、私は歌っていきます」

このテレサ・テンさんの言葉は、いまだに実現してはいない。

早田 健文 在台湾ジャーナリスト、『台湾通信』代表

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はやた・たけふみ / Takefumi Hayata

1958年生まれ。広島大学大学院地域研究研究科アジア研究専攻修了(国際学修士)、1984年に台湾大学歴史研究所留学。1991年~2013年、台湾の政治・経済情報誌『台湾通信』(日本語)を発行。台湾の対外放送「自由中国之声」日本語番組アナウンサー、「台湾国際放送」日本語番組パーソナリティーとして、台湾発のラジオ日本語放送の番組を制作。

現在、インターネットラジオ「台湾通信webradio」を主宰。NHKラジオ海外リポーターも務める。各種メディアに執筆している。医薬品、健康食品、化粧品の分野を中心に、日本と台湾とのビジネスの架け橋も務めている。

著書に『台湾人の本心』東洋経済新報社(1998年)。

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