テレサ・テンはなぜ「台湾人」と自分のことを言わなかったのか、中国人、台湾人とアイデンティティーで悩む台湾芸能人の胸の内

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さらに、彼女の発言を拾っていこう。

「今年は新中国成立70周年。ここで私は偉大な祖国の繁栄を祝福する。私は私の祖国を愛しています」
「人はどこにいても自分のルーツを覚えている。私は私が中国人であることを誇りに思います」
「海外であなたはどこから来たのかと聞かれたら、いつも『I come from China』と答えます」
「家族の族譜に自分の名前を見つけた時のあの感動は永遠に忘れません」

「チャイニーズ」と口にすること

こう並べてみると、台湾の独立性を主張し、中国との関係を切り離したい現在の台湾の民進党政権が激怒するのも納得できる。

しかし欧陽娜娜さんの発言は時代と状況はと違うが、同じ「外省人」だったテレサ・テンさんの「私はチャイニーズです。世界のどこに行っても、どこで生活しても私はチャイニーズです」という言葉を思い起こさせる。

台湾の民進党政権は欧陽娜娜さんを罰しようとしているが、彼女の行為はそれほど悪いことなのだろうか。台湾で生まれ育ちながら彼女たちが抱える中国と切り離すことのできない複雑な心情、そして台湾と中国の間に挟まれてしまった苦悩を、政治的な立場から罰することの意味を深く考えての判断なのだろうか。

欧陽娜娜さんは、統一戦線を目的に中国の政府系メディアが制作した「我們同唱一首歌(私たちは同じ歌を歌う)」の歌唱に参加している。

2022年にリリースされたこの歌は、台湾と中国の人気歌手数人が参加して、中国語と閩南話(台湾で使われている中国の地方言語)で歌ったものだ。

この歌は台湾と中国は「もともと1つの家族だ」と情感に訴える。中国福建省と台湾で信仰を集める媽祖の巨大な2体の神像が登場し、双方が同じ文化をルーツに持つことを訴える。

この歌は当時、大きな論議を引き起こした。中国それに台湾の親中派は肯定的に評価し、民進党支持者はこれを批判した。これは推測だが、欧陽娜娜さんが台湾と中国に対して持つ感情は、あるいはこの歌に近いものだったのではなかろうか。

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