テレサ・テンはなぜ「台湾人」と自分のことを言わなかったのか、中国人、台湾人とアイデンティティーで悩む台湾芸能人の胸の内

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

欧陽娜娜さんの場合は、民進党政権が法的手段で引き締めを図ろうとするケースの1つだ。ここでもう1つのケースを紹介したい。

政権が締め付ける以前に、台湾と中国をめぐる発言で、しばしば「炎上」が発生している。記憶に新しいのが、台湾の人気女優の林依晨(アリエル・リン)さんのケースだ。

2024年、林依晨さんが中国のテレビ番組に出演した時の話だ。出演者の1人が自分は中国四川省の成都の出身だと言うと、林依晨さんはすかさず手を挙げ「私、成都人です」と言い出した。

「私は成都人です」発言で女優が炎上

彼女は台湾の宜蘭県に生まれ、台北市で育った。しかし、祖父は成都出身、つまり台湾の「外省人」である。この発言が、騒ぎをもたらすことになる。

林依晨(アリエル・リン)さん(VCG/VCG via Getty Images)

彼女のこの発言を聞いた中国の多くのファンは、あなたは台湾人だと思っていたけれど、実は成都人だったんだ、などと彼女に親しみを示した。ところが逆に、台湾では彼女に対するバッシングが始まる。とくに注目されたのは、彼女の大学時代の恩師による批判だった。

林依晨さんの「成都人」発言を聞くと彼は、自分にはこれまで「成都人」の学生はいなかった、とても失望した、彼女の写真は全部消した、もうメッセージを送ってこなくていい、などとSNSに書き込んだのである。

ところが、彼の発言に対して台湾の中で批判が起きた。人の立場はさまざまであり、林依晨さんの立場も尊重すべきだというわけだ。双方の意見が対立して騒ぎが拡大したのである。

アイデンティティーにかかわる発言は、台湾で容易にバッシングの対象となってしまう。現在、民進党政権は、中国との切り離しを進め、その根拠として心理的にも台湾人のアイデンティティーを強調する政策を進めている。つまり台湾人は中国人ではない、という主張だ。これが台湾の人たちの間で、中国に対する反感、あるいは嫌悪感を助長している。

こうした状況の中で、林依晨さんが「成都人」だと発言すれば、あいつは自分が中国人だと言っている、台湾を裏切った、と見られてしまう。一方で、祖父が成都出身なら「成都人」と言って何が悪い、アイデンティティーは強制されるものではない、という意見もある。双方の主張は折り合わない。

次ページはこちら
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事