テレサ・テンはなぜ「台湾人」と自分のことを言わなかったのか、中国人、台湾人とアイデンティティーで悩む台湾芸能人の胸の内
この騒ぎに対して、林依晨さんは「成都、台北、宜蘭は父方の祖父母、母方の祖父母、そして自分が育った場所です。これらの場所がなかったら今の自分はありません。皆さん、理解してください」と発言して騒ぎを収めることに努めた。ここでも、テレサ・テンさんの言葉が思い起こされる。
「成都人」発言によって台湾でバッシングを受けた林依晨さんだが、実は逆に中国からバッシングを受けたこともある。彼女が、韓国でのテレビ番組に関する授賞式に参加した時のこと。彼女が出演するドラマは韓国でも人気だった。その授賞式で彼女は、「台湾の芸能人として、この賞をもらえてとてもうれしい」とあいさつした。
中国からも、台湾からもバッシング
これが、中国からの大量のバッシングを受けることになる。「これまであなたのファンだったけれど、祖国を分離させようとする者は中国から出ていけ」などと批判される。
自分たちの同胞だと思っていたスターが、自分は中国人だと言わず、自分たちから離れようとする台湾人だと言ったのであるから中国人は怒った。
対立を深める台湾と中国の間では、つねに「あなたは何人」ということが問われる。少し言い間違えると、激しいバッシングにさらされることになる。
とくに中国で活動する台湾の芸能人はそうした双方からのバッシングにさらされやすく、これまで数知れず繰り返されてきた。双方の人々の感情が悪化する中で、今、台湾の芸能人がテレサ・テンさんのように「私はチャイニーズです」などと言ったら、いったいどうなるのだろうか。
テレサ・テン、欧陽娜娜、林依晨と、これまで台湾の「外省人」の心情を見てきた。その心情は、台湾のマジョリティーである「本省人」(戦前からの台湾住民とその子孫)とは確かに違うかもしれないが、台湾社会を構成する一員であり、少数であっても決してマイノリティーではなくその影響力は今も大きなものがある。芸能人の多さから見てもそれがわかる。
彼らが持つ心情には、歴史的な経緯があり、彼ら自身の罪ではないだろう。それを単純に中国共産党に強制されたものだと断罪することは、あまりにも説得力がない。彼らの発言が本当に台湾の安全保障に影響するものなのか、あるいは彼らの言論の自由は守られるべきなのか。事情はそれほど単純ではない。
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