企業年金制度の要諦を早急に再点検せよ
憤りを通り越して、やるせない気分に襲われる。
「AIJ投資顧問」という悪辣な投資顧問会社の手に委ねられた企業年金資産2000億円の大半が、不明朗な扱いの果てに失われた。極めて重大な事件である。消失した資産の多くは全国の中小企業群が加盟した厚生年金基金に積み立てられていたもの。中小企業に勤める勤労者にとって、大切な老後資金として蓄えられてきた年金原資である。
破格の高配当などを売り言葉にした悪徳詐欺業者にだまされて、預けたカネを失う被害は後を絶たないが、今回は別格である。厚生年金基金という国が定めた社会保障制度の枠組みの中で発生している。このままでいけば、社会保障制度の一端が揺らぐことになりかねない。何らかの救済措置の検討が必要である。
受託者責任とプルーデンス
それにしても、なぜこのような事態が起きたのか。事件発生の実態解明が待たれる。だが一方、事件が発覚するや、原因の解明と批判対象の設定が安易になされる傾向も見られる。すべてが間違っているとはいえないまでも、一歩引き下がって、事件を生み出した背景を冷静に見つめ直すことが重要だ。
厚生年金基金制度は、近年随分と揺れ動いた。1966年に発足したこの制度は、高度成長期に普及。基金数は96年度末にピークの1883基金となったが、以後、急速に減少に転じ、2010年度末にはピーク時の31%の588基金にまで減少した。これは、退職給付債務会計のバランスシートへの計上を義務づけた会計基準変更を機に、基金の設立母体企業が基金制度に内在する公的年金の代行部分を返上し、自社年金を89年に導入された確定給付型年金に移行させる動きが強まったからである。