農業の誇りをかけ新天地へ--原発事故で移住した夫妻が春耕へ

農業の誇りをかけ新天地へ--原発事故で移住した夫妻が春耕へ

東日本大震災は多くの人の人生計画に歪みを生じさせた。特に、東京電力福島第一原子力発電所の事故は、被災地はもちろん首都圏などにも深刻な影響を与えている。とりわけ、農業従事者たちは、自らが作る作物や土地に放射能が降り注いだ影響で、地元に残って作り続けるか、あるいは廃業するかという厳しい選択を、現在でも強いられている。

そのような中、茨城県で有機農業を続けようと定住した夫婦が、一つの決断を行った。安全な土地を求めての移住。多くの人が苦悩する中で、この夫婦は新天地に向けて足場を踏み固めようとしている。

その夫婦は、阪本考司さん(30、右写真)と瑞恵さん(36)。阪本さん夫妻は2008年4月、茨城県石岡市で就農した。ここで「むすび農園」を設立、約50種類の野菜を育てながら、契約した家庭に年間を通じて旬の野菜を発送する有機無農薬野菜の宅配を行っていた。同時に、農園に都会の人たちを招き農業を手伝ってもらう「援農」も実施。農業を知り、本当に体によい野菜を知ってもらおうとの意欲を持って、農園経営を続けていた。

そんな阪本さん夫妻にも、原発事故は過酷な現実を突きつけた。原子炉の水素爆発による放射性物質が北関東を覆い、石岡市でも通常よりはるかに高い放射線量を記録。土壌も汚染された。

基準値より高い、低い、といった見方ではなく、現実に土に放射性物質が“ある”という現実。それが夫婦を悩ませた。また、1歳の長女・恵美ちゃんの存在も、不安に拍車をかけた。

自分たちが作った作物が消費者を被曝させることになると同時に、自分の愛娘の身体にも悪影響があるのでは。自分たちの理想の農業がこのままでは立ち行かなくなると考えると、悩みは深くなるばかりだった。

「農民として、自分たちの土地を離れてよいものかと思う一方、明らかに内部被曝する可能性が高い作物を作り続けるのもどうか。そんな作物を農民が出荷していいはずがないと考えたり、悩み疲れていた」と阪本さん夫婦は当時を振り返る。 

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