"松下ウォッチャー"が看破する、パナソニックが「人員削減を繰り返す会社」へとなり果てた根本理由
原因は複数あるが、その1つを物語る記憶が蘇った。カラーテレビ事業30周年の記念製品として「画王」を発売した1990年に、2024年末に亡くなった加護野忠男・神戸大学名誉教授が口にした一言だ。
「松下電器(現パナソニック)も、今頃、テレビに力を入れているようでは、あかんわな(だめだね)」
その後、徐々にBtoB事業の比率を高めていったが、経営改革が1周、2周遅れているようだ。日立製作所やソニーグループの復活を見れば、説明するまでもない。
中村社長時代、プラズマテレビ(パネル)に固執し、多額の投資に失敗したことが諸悪の根源のように言われているが、その前代である森下洋一社長時代もテレビを看板事業として温存し続け、頼りすぎた経営戦略が問題であったのではないか。
楠見氏はいよいよ、そのテレビ事業にメスを入れる。「テレビ事業を売ろうとしても、買ってくれるところなどない」という現実を目の当たりにして、ほかの家電製品と同様、「チャイナ基準で戦えるようにする」という。つまり、高品質を維持することを前提に委託生産を積極的に活用し、中国市場で中国製品と戦える価格競争力をつけようとしている。
プラズマテレビは一見すると、イノベーションに映った。経営者層もそう勘違いしていた。その実態は画面がブラウン管から薄型パネルに変わっただけ。以前と同様、成熟したテレビ市場で、多くの液晶テレビメーカーと過当競争を繰り広げた企業行動に何の変化も見られなかった。
レッドオーシャンに進出したがる社風
パナソニックHDは競争の激しい分野ばかりに活路を見いだし、競争疲れしてしまうというパターンに陥っている。例えば、車載用電池だ。津賀一宏・前社長は、これを住宅事業と並ぶ屋台骨にしようとした。ところが、いうまでもなく中国メーカーとの激しい競争にさらされており、同市場首位の座をあっという間に明け渡してしまった。
軽くて曲がる日本発の次世代薄型太陽電池として注目されているペロブスカイト太陽電池も将来、同じような競争環境に置かれる可能性がある。パナソニックHDはガラス建材一体型を開発したが、すでに積水化学工業など複数の日本メーカーが同市場に参入しており、中国メーカーも猛追している。
2021年9月、パナソニックHDは、サプライチェーンマネジメント(SCM)のソフトウェア会社、ブルーヨンダーを総額約8600億円で買収した。これにより、エネルギーソリューションと並び、SCMソリューションに注力し、グループ全体でシナジー(相乗効果)を創出しようとしている。だが、この分野にも強力な企業がひしめいている。
欧州で注力しているヒートポンプ式温水給湯暖房機(A2W)も同様だ。なぜ「できるだけ競争しない事業」を生み出そうとしないのだろうか。
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