【産業天気図・鉄道/バス】運輸や不動産好調で07年度も堅調続き「晴れ」
鉄道業界の07年度は、景気の腰折れが予想されない現状では、売上高の伸びは小幅ながら、堅調な増益が期待できそうだ。
足元の06年度(07年3月期)を見ると、第3四半期実績は私鉄大手13社(非上場の西武ホールディングスを除き、阪急阪神ホールディングス<9042.東証>は旧阪神電鉄の第1四半期実績を合算)合計で、売上高5兆1690億円(前年同期比1.6%減)、営業利益4196億円(同2.9%減)、経常利益3531億円(同1.7%増)、純利益2098億円(同32.8%増)だった。
主力の鉄道など運輸事業の輸送人員は、関東では小幅増が続くなど予想を上回る動きが続いている。また、不動産や流通も総じて好調だが、減収会社が8社に上った。これは名古屋鉄道<9048.東証>、近畿日本鉄道<9041.東証>は前期の愛知万博効果の反動減、京王電鉄<9008.東証>は旅行事業の売り上げ計上方法の変更、京浜急行電鉄<9006.東証>、相模鉄道<9003.東証>、京阪電気鉄道<9045.東証>は大型不動産物件の引き渡し時期が前期は上期にあったことなどによる。営業減益も8社に上ったが、これは名鉄、近鉄、京阪は上記の要因、東京急行電鉄<9005.東証>は目黒駅工事完成に伴う大型除却費の計上が響いている。
上場JR3社(東日本旅客鉄道<9020.東証>、西日本旅客鉄道<9021.東証>、東海旅客鉄道<9022.東証>)合計の第3四半期は、売上高4兆0435億円(同1.7%増)、営業利益8296億円(同2.9%増)、経常利益5875億円(同11.9%増)、純利益3484億円(同17.8%増)だった。特に、JR東日本の好調が続いており、第3四半期としては過去最高売上高・利益である。運輸は堅調な伸びが続き、駅ナカなど物販や不動産賃貸事業も好調だ。JR東海は万博特需の剥落で中間期までは減収減益だったが、10~12月期の東海道新幹線の好調で取り戻し、第3四半期では若干の増収・営業増益、2ケタ経常増益に転じた。
こうした第3四半期までの好調を確認したことで、『会社四季報』春号では07年3月期の通期予想を増額した。私鉄13社合計の通期売上高は7兆1900億円(前期比0.0%増)、営業利益5444億円(同0.0%減)、経常利益4422億円(同2.5%増)、純利益2443億円(同21.2%増)を見込んでいる。前号(新春号)では「売上高0.1%減、営業利益3.1%減、経常利益1.7%減、純利益21.0%増」を予想していたが、「増収・経常増益」予想に転じた形だ。中間期時点での公表予想に対し、東武、相鉄、小田急電鉄<9007.東証>、京王、南海電気鉄道<9044.大証>の5社が営業利益を増額したが、『四季報』では名鉄、近鉄、京阪の3社を除く10社の営業利益を増額した。増額幅は13社合計で売上高で75億円、営業利益で170億円となった。また、『四季報』では会社計画の営業利益、経常利益に対して13社計で、ともに101億円上乗せして予想している。鉄道事業などでは第4四半期に工事完成に伴って除却費が発生することなどから、会社側が慎重な予想を変えないケースがままあるが、第3四半期までの好調や輸送人員の増加が、会社予想を小幅ながら、なお上回っているケースがあるためだ。それでも営業減益会社が6社ある。これは名鉄、近鉄、東急は上記の要因、阪急阪神は旧阪神統合に伴うのれん償却負担などのためだ。
JR3社の通期については売上高5兆3790億円(同1.5%増)、営業利益9333億円(同0.2%減)、経常利益6034億円(同2.2%増)、純利益3488億円(同6.8%増)を見込む。中間期時点に比べて増額を公表したのはJR東日本のみだが、『四季報』ではJR東海も増額した。
◆各社のテーマは次の成長のタネ作り
続く07年度(来08年3月期)は私鉄13社合計で、売上高7兆2050億円(今期予想比0.2%増)、営業利益5475億円(同0.6%増)、経常利益4435億円(同0.3%増)、純利益2323億円(同4.9%減)を見込んでいる。『四季報』新春号比では売上高を400億円減額した一方、営業利益を89億円、経常利益を156億円増やした。一見、横ばいに見えるが、もともとグングン伸びる業態ではなく、現時点では「高原」状態と言える。逆に言えば、悪くなる要素はなさそうだ。
東急、小田急、京王など首都圏西部を地盤とする私鉄は沿線人口の増加が続いており、来期も輸送人員増が見込める。京急はドル箱の羽田空港線が好調。東武は大型分譲物件の剥落はあるが、競合新線の開業が08年にズレることが福音になりそうだ。関西地域の輸送人員が漸減基調にあるという構造問題はあるが、景気腰折れがなければ運輸、不動産、流通の主力3業態の堅調は続きそうだ。来期営業減益が見込まれる5社は、のれん償却がフルにかかる阪急阪神や、3月18日スタートの共通ICカード乗車券「パスモ」関連などで減価償却増を見込む東武、相鉄などで、逆に東急は除却費減少がプラスに働く。純利益で減少を見込んでいるのは、東武が07年3月期に特殊要因から特別利益で純益を膨らませていたのを通常ベースに戻すためで、同社1社が攪乱要因となっている。
JR3社合計の08年3月期予想は、売上高5兆4310億円(同1.0%増)、営業利益9580億円(同2.6%増)、経常利益6380億円(同5.7%増)、純利益3705億円(同6.2%増)と、着実な伸びを見込んでいる。堅調な景気状況に加え、07年度はJR発足20周年で記念企画が始まっていること、団塊世代の定年で退職記念旅行が流行しそうな状況も後押ししそうだ。また、JR東日本では東京駅再開発に伴うビル3棟が開業することや、立川駅や東京駅で大型の駅ナカ物販店が開業することも寄与する。
先に触れたように、3月18日から首都圏私鉄・バス業者で共通ICカード乗車券のパスモがスタート。利便性の向上を狙ったもので、これ自体で輸送人員が大きく増えることはないが、電子マネー機能を持つパスモの導入により、グループのカード事業と連携させ、百貨店、ストアなどの流通業やトラベル、ホテルなどの分野で沿線住民を中心に顧客を囲い込もうと、各社は知恵を絞っている。またJR東日本の「スイカ」とパスモはラベルが違うだけで中身は同じ。パスモの拡大は、それだけでJR東日本の関連事業にいくばくかの利益をもたらそう。
東京駅再開発がいよいよJR東日本の業績に具体的に寄与し始めることも先に触れたが、首都圏では私鉄を中心にした再開発がいくつも動き出している。東急の二子玉川再開発、たまプラーザ開発、旧キャピトル東急ホテル跡地の永田町複合ビル計画などは09年から10年にかけて竣工、業績に寄与し始めるし、東急には渋谷再開発という大プロジェクトも控えている。東武は新東京タワーを核とする再開発案件を進め、小田急も旧向ヶ丘遊園跡地の再開発計画を発表した。再開発ではないが、京急は羽田空港の再拡張に備えて新駅の建設を進め、京成電鉄<9009.東証>は成田新線関連工事に余念がない。
首都圏の人口増加は今しばらく続く見込みだが、輸送人員の伸びがスローダウンするのは避けられない。沿線を中心とした再開発によって流通、不動産賃貸を核とした次の成長のタネ作りに、鉄道各社は走り始めている。
【中川和彦記者】
(株)東洋経済新報社 会社四季報速報プラス編集部
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