「安さ競争」から「価値競争」へ。KDDI、既存ユーザーへの値上げと料金に応じた通信品質の差別化を導入
しかし今回のサービスは「対象のお客様に相対的に多くの無線リソースを割り当てる」技術を採用する。KDDIの竹澤浩パーソナル事業本部長は「一般のお客様の通信品質はもちろん確保したうえで、一般のお客様より相対的に多くの無線リソースを割り当てる仕組み」と説明した。

au 5G Fast Laneはauの使い放題系の料金プランすべてが対象になっているが、低料金のスマホミニプラン+やサブブランドは非対応だ。
つまり、「支払う料金に応じて通信品質に差をつける」という、これまでタブー視されてきた差別化を明示的に打ち出したのだ。通信の安定性という「見えない価値」を可視化し、料金体系に組み込んだ点で画期的な転換と言える。
値上げの背景
松田社長は値上げの理由として「価値ある対価をいただき、パートナーに還元し、未来への再投資を行う好循環を実現する」と説明した。世界的な物価高の中、建設会社や代理店への対価、電気代の上昇など、さまざまなコスト増を理由に挙げた。

実は2018年に菅義偉官房長官(当時)が「携帯料金は4割下げられる」と発言して以降、政府主導の値下げ圧力で携帯電話業界は低価格競争に突入していた。各社が格安ブランドを展開し、メインブランドも値下げ競争に突入。各社の収益指標は1~2割も縮小した。
インフレ基調の中の値下げ競争という悪循環を脱却したい思いは各社とも同じだ。KDDIの場合、今年2月に高橋誠社長(当時)は「日本の通信料金はアメリカの半分以下」と発言。価値に見合う対価の必要性を訴えていた。松田新社長にバトンタッチして、ついに実行に移した形だ。

競合他社にも値上げの動きがある。4月にはNTTドコモがデータ無制限の新プラン「ドコモMAX」を発表し、従来のeximoより月額1133円高い税込8448円に設定。スポーツ配信「DAZN for docomo」の無料組み込みや国際ローミング30GB無料を付与する形で、斎藤武副社長は「通信の単価を上げるというより、価値を束ねて提供する」と述べ、方向転換をにじませている。
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