犬を食べたら≪3年以下の懲役、または約300万円以下の罰金≫に。韓国の「犬肉文化」が今さら禁止された理由とは?北朝鮮はタンコギとして珍重

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ここで、韓国の政界雀が騒ぐのが、「金建希氏への忖度」だった。強い夫婦愛はもちろん、実際に一緒にいる時間が長いことから、金氏の尹大統領への影響力には定評があった。例えば、2023年4月に夫妻が訪米した際、韓国の人気グループBLACKPINKとアメリカのスター歌手、レディー・ガガの合同公演を巡っても、「金氏の怒り」がうわさになったことがある。「金氏は合同公演に乗り気だったのに、国家安保室が費用や日程の問題から消極的な対応に終始した。金氏は激怒し、結果的に儀典秘書官や外交秘書官、最後にはトップの金聖翰(キムソンハン)国家安保室長が次々に辞める事態に発展した」というものだった。

忖度こそが韓国の政治文化

韓国政界関係筋の一人は当時、「常識で考えて、金氏がいちいち国政に口を突っ込むとは考えられない。でも、忖度こそが韓国の政治文化。尹大統領夫妻、特に金氏が犬の食用禁止に熱心だというのは周知の事実だ。そうなれば、自然と事務方の対応も熱を帯びるというものだ」と語った。

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また、従来、犬の食用禁止を巡っては、市民団体の影響力が強い進歩勢力に比べ、業界団体の保護などの観点から、どちらかといえば、保守勢力では慎重な姿勢が目立っていた。保守が立法化に動いた背景の一つには、「尹大統領夫妻への忠誠心」があるのではないか、という声も政界関係者から出ていた。韓国は当時、2024年4月の総選挙を控えていた。苦戦が伝えられていた与党「国民の力」の議員たちは、保守の金城湯池とされるTK(大邱・慶尚北道)やソウルの江南(カンナム)区からの出馬を希望していた。

こうした選挙区の現職議員の一人は「誰も彼も、有利な選挙区での出馬を目論むから、大変だ」と悲鳴を上げていた。政界関係筋の一人は「当選したい議員はみな、有利な選挙区での公認を狙って、韓東勲氏(当時、党を差配する非常対策委員長)と尹大統領のご機嫌をとりたいところだろう」と語っていた。

韓国政界とメディアはかまびすしかったが、一般社会は至って冷静な状況を維持していた。60代の知人は法律制定当時、「韓国の政界はローラーコースター(ジェットコースター)みたいなもの。(罰則が適用される)3年先がどうなっているかなど、誰も予想がつかないからだ」と語った。尹錫悦大統領の弾劾で、妻金建希氏の威勢も地に落ちた。どうやら、知人の見方は当たりそうだ。

牧野 愛博 朝日新聞外交専門記者・広島大学客員教授

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まきの よしひろ / Yoshihiro Makino

1965年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒業後、大阪商船三井船舶(現・商船三井)に入社。1991年、朝日新聞社入社。瀬戸通信局、政治部、販売局、機動特派員兼国際報道部次長、全米民主主義基金(NED)客員研究員、ソウル支局長などを経て現職。『北朝鮮秘録 軍・経済・世襲権力の内幕』、『ルポ 絶望の韓国』(ともに文春新書)、『戦争前夜 米朝交渉から見えた日本有事』(文藝春秋)、『金正恩の核が北朝鮮を滅ぼす日』(講談社+α新書)、『ルポ「断絶」の日韓』、『北朝鮮核危機!全内幕』(ともに朝日新書)、『ルポ 金正恩とトランプ』(朝日新聞出版)など著書多数。

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