部下の自立性を尊重し「邪魔をしない」ことで結果を出す。老子が説くリーダーとは英雄やヒーローではなく「陰に隠れた存在」

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ただし、そうした効力を発揮するためには、適切な「形」を構築することが必要になるという。老子からそうした“無の効力”を抽出するとすれば、次の2タイプに分けられるという。

① 余白の効力――空間の効用
② 柔弱の効力――水の効用(33ページより)

老子のなかでは、①余白の効力は「空間」、②柔弱の効力は「水」を例として説明されているわけだ。それらを比喩的に表現した場合、「空間の効用」「水の効用」になるということである。

だとすれば、これらはなにを意味するのだろう?

余白の効力の「余白」とは、書画でいえば文字通り何も塗られていない部分であり、「余白の美」という言葉があるように、この余白があるからこそ、そこに描かれている書や絵の美しさが引き立つ。
余白とは、自己主張せず、他者の自由な活動を妨げないことを指す。それだけでなく、余白の効力は、他者の勢いを際立たせるものと解釈することができるだろう。(33〜34ページより)

争わないが故に負けることがない

ただし、余白の効力が機能するためには、なんらかの条件が必要になるに違いない。著者によれば、その条件に該当するのが「柔弱の効力」。余白の効力に柔弱さが加わることで、勢いが増していくわけである。

柔弱の「柔」は「柔軟さ」を示し、「弱」は柔軟だからこそ「変幻自在」であることを意味する。弱は特定の形や立場に執着しないということでもあり、それを守り切ることができると「強」となる。つまり柔弱の効力とは、柔弱だからこそ、最終的に勝てることを意味するのだ。

この柔弱の実例として老子が指摘するのが「水」なのである。

上善は水の若し【上善若水】
上善は水のようなものである。水は善く万物を利して争うことがなく、衆人の嫌うところ、低いところにとどまる。だから道の働きに近い。住むには低い(衆人が嫌う)土地を善しとし、心はあの淵の水のように静かである。仁をもって人と交わり、その言葉に嘘がなく、正しく治まる政治を行い、物事を処するにおいては有能である。行動するときは時に適っている。このように争うことがないため、間違いもない。(49ページより)

水はもっとも柔弱な物質のひとつ。「水は方円の器にしたがう」ということばのとおり、器の形に合わせて自らの形を自由に変化させる。

そうした柔弱さの本質は、「不争」にあると著者は説く。つまり、争わないからこそ負けることがないのである。

水は高きところから低きところに移る。多くの人が好むところではなく嫌うところに行き、そこにとどまる。もし、他の人たちが好むところにとどまろうとすれば、争いや勝ち負けが生じる。
水はそのような争いには関与せず、皆が嫌うところに進んでいく。(27ページより)

たしかにこうした考えは、ビジネスの現場においても効力をもたらしてくれるだろう。つまりはそこに、戦略書としての老子の価値があるのだ。

印南 敦史 作家、書評家

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いんなみ あつし / Atsushi Innami

1962年生まれ。東京都出身。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。「ライフハッカー・ジャパン」「ニューズウィーク日本版」「サライ.jp」「文春オンライン」などで連載を持つほか、「Pen」など紙媒体にも寄稿。『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(PHP文庫)、『いま自分に必要なビジネススキルが1テーマ3冊で身につく本』(日本実業出版社)『「書くのが苦手」な人のための文章術』(PHP研究所)、『先延ばしをなくす朝の習慣』(秀和システム)など著作多数。最新刊は『抗う練習』(フォレスト出版)。

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