部下の自立性を尊重し「邪魔をしない」ことで結果を出す。老子が説くリーダーとは英雄やヒーローではなく「陰に隠れた存在」
なお老子の教えでは、「なにもしないで結果を出す」ための重要な条件があるという。それは「無為にしたがう」、すなわち「自然のままに任せ」こと。そのためには、なにもしないほうがよいのである。したがって、老子の教えをビジネスに生かすためには、まずはこの条件を理解しておかなければならない。
道は常に無為であり、無にして為さざるところがない。人の上に立つ君主がこれをよく守れば、万物は自生していくだろう。(27ページより)
これは老師の有名な教え。無為とは「為す無し」と訓読すれば、「なにもしない」を意味することになる。「無為であることによって、あらゆることを為せる」というわけだ。
「なんらかの行動がなければ、なにごとも実現しないのではないか?」と思いたくもなるかもしれない。著者も老子を読み始めたころは「無為」をうまく解釈することができず、途中で投げ出したこともあったという。
これは目から鱗であり、すると老子の教えの大半が論理的に説明できるようになった。たとえば「無為にして為さざる無し」とは、
「無の働きにしたがえば何事でも為すことができる」
という意味になる。これはもはや逆説的な表現ではなく、ただ無の働きの偉大さを称揚しているものとして理解することができる。(28ページより)
なるほど、そう考えれば老子の教えをより身近に感じることができそうだ。
「邪魔をしない」ことで他者の行動を促す
では、無為にしたがうためには、具体的にどうすればよいのか。その基本となる行為は「なにもしないこと」。老子によれば、「なにもしない」ことが無為にしたがうことになるというのだ。
そして、ここで鍵となるのが「勢い」だ。「なにもしない」ことで「勢い」を強化していくことが「無為にしたがう」、すなわち「無の働きにしたがう」ことになるというわけである。これは、「勢いを強化することが無為にしたがう」ことであると理解すればいいようだ。
この「なにもしない」ことがもたらす力を、本書では「無の効力」と定義している。自分は「なにもしない」ことにより、他の者の行動、とくにその勢いに対して大きな影響、効果を及ぼすことを指しているのである。
具体的にいえば、他者の自立性を尊重し、その邪魔をしないことで勢いを増すという考え方だ。それだけでなく、本人はなにもしないけれど、その存在自体が磁石のように他者を突き動かすこともありうるだろう。
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