スマートグリッドの経済学--金融政策、財政政策に代わる第3の経済政策を
慢性的な「流動性のワナ」からの脱出に関する経済学モデルによる解説
以上を複数均衡、IS・LM分析により経済モデルを使って説明すると、図2のようになる。
慢性的な「流動性のワナ」の下でデフレが継続して物価が低下を続け、投資機会と消費機会が極端に萎縮している経済では、IS曲線は下方に大幅にシフトとしてしまう。さらに、名目金利はゼロ未満にはできないという“決め事”があるため、実体経済の均衡点は名目金利がゼロのIS曲線上の点となる。これが現在の日本経済が陥っている状態である。
この状態において、IS曲線を右に大きくシフトさせる効果を有するのが、投資機会を拡大させるスマートグリッドと消費機会を拡大するエコポイント(または「プレミアム付き東北・日本再生共通商品券」)であり、図2の左下の矢印がそれに当たる。
IS曲線を右にシフトさせる効果を有するほかの手段として財政出動があるが、「マネーによる需要の飽和」は財政支出をも吸収するので著しく効果が減殺されるばかりか、現下の日本の財政事情の下では巨額の財政出動は無理である。また、慢性的な「流動性のワナ」の下では金融政策は基本的に無力であり、日銀がいくら量的緩和政策を行ったとしても、LM曲線を左にシフトさせることはできない。
スマートグリッド&エコポイントによりIS曲線が右に大きくシフトすると、LM曲線と交わるようになる。こうして慢性的な「流動性のワナ」から脱出して、企業や家計は「コンフィデンス」を上昇させて、「需要とイノベーションの好循環」が形成される。
その移行過程で起こるのは、「需要サイドにおける短期的な需要創出→それを前提とした革新的投資の誘発→需要サイドにおける中長期的な需要創出→革新的投資に伴う中長期的な産業競争力の強化→供給サイドにおける全要素生産性の上昇」という好循環サイクルである。
かとう・としはる
一般社団法人スマートプロジェクト代表。1954年生まれ、77年東京大学法学部卒、通商産業省(現経済産業省)入省、サービス産業課長、東京大学大学院客員教授、内閣審議官等を歴任。2010年スマートプロジェクトを設立。「エコポイント提唱者」として政府が進める家電エコポイント、住宅エコポイント事業に協力。
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