スマートグリッドの経済学--金融政策、財政政策に代わる第3の経済政策を

拡大
縮小


 
 主要電力11社(10電力+J-POWER)の売上高の合計だけで17.2兆円(11年3月期)、ガス、石油などのエネルギー産業、情報通信、自動車、家電などの関連産業の市場を含めると、数十兆円に達する。
 
 東日本大震災・福島第一原発事故後の新しいエネルギー需給状況を踏まえると、エネルギー構造改革は避けて通れない課題である。情報通信技術の発達は、数多くのネットベンチャーを生み、さらに「通信と放送との融合」、縦の産業構造から横の産業構造への変化などにより、ビジネスモデルの大変革をもたらした。それと同様に、1億人の人口と数十兆個規模の機器がノード(結節点)になる巨大なエネルギーのネットワークを構築すれば、おびただしい投資機会の拡大により「需要創出」型のイノベーションを創造することができる(スマートグリッドの詳細に関しては、拙著『スマートグリッド革命』(NTT出版)を参照)。

消費機会を拡大するエコポイントの併用が必要

ただ、投資の拡大だけではなく、最終需要を構成するもう1つの項目である消費を喚起する手段を登場させること(消費機会の拡大)が必要である。この点に関しては、エコポイントを発展させることが処方箋となる。
 
 ここで言うエコポイントは、国の事業として推進されてきている「家電エコポイント」や「住宅エコポイント」を発展させた、省エネ・創エネ・蓄エネ行動を促進するインセンティブとして、「スマートプロジェクト」が一般ユーザーに交付するものである(年間数千円~1万円規模)。
 
 そうしたユーザーの行動による電力のピーク需要低減は電力会社に対する資本コスト低下等のメリットをもたらすので、ポイント原資の提供を電力会社等に求めることも可能になる。

エコポイントには経済価値があるが、利子が付かない、すなわち名目利子率ゼロであり、ポイントの有効期限が設定されているということで、マネーとは異なる性質がある。
 
 消費機会の不足の下では、マネーは家計等に退蔵されてしまい消費が喚起されない。これに対してエコポイントは、利子を生まないので長期保有のメリットがなく、逆に有効期限が来ると価値を喪失しまうので、退蔵されることなく次に使われる。
 
 したがって、消費機会の不足の下でも一定となった「時間選好率」を上昇させることにより消費需要を増大させることになる。しかも、消費需要が伸長してモノやサービスが売れるようになると投資需要も喚起される。消費における人々の「コンフィデンス」の向上、消費需要の伸長とそれに裏打ちされた投資需要の増加がここで実現される。

筆者としては、合わせて、東北を含む全国各地域で1年程度の有効期限を付けた「プレミアム付き東北・日本再生共通商品券」(有効期限を付ける代わりに1割のエコポイントをプレミアムとして付加する)を流通させて、消費の拡大と地域経済の活性化を図ることを提案したい。
 
 総務省の調べによると、プレミアム商品券発行予定自治体数は、09年4月時点では974市町村(全国の市町村数は1776なので全体の約55%)、プレミアム商品券発行総額は、1194億円に達している。自治体のプレミアム分の負担は、国が負担するか前述のエコポイントにより支援すれば、各地域で、プレミアム分の11倍の券面額、数兆円規模の「プレミアム付き東北・日本再生共通商品券」が流通することになる。国と日本商工会議所等の連携により対処することが必要であろう。

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