定説を覆した醸造家が再び挑む"甲州の奇跡" 日本固有の甲州種で目指すワインの革新<下>

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2013年に収穫された甲州ブドウは、かつてないナチュラルな凝縮感を持っていた。

「このブドウなら、“お化粧”しなくても良い味にある」

そう確信した彩奈は、技術的な加工を一切排してワイン造りに臨んだ。後に「キュヴェ三澤 明野甲州2013」と名付けたこのワインは、彩奈にとって特別な存在だった。

だから、我が子のように扱った。

ようやくイメージしたワインが出来たときの喜びを語る三澤さん

「いつもは営業に任せているんですが、この時ばかりはワインと、その年に書いた甲州種の垣根栽培に関する論文を自分で持って、いつもお世話になっている酒屋さんと業務店を周りました。

そして、『このワインはすごい可能性を持ったワインで、今までの甲州とは別物です。いろいろな議論を醸し出すワインかもしれないけど、ぜひ味方になってください』と伝えました」

いつにない彩奈の熱意に打たれ、「わかりました」と神妙に頷いた業者は、後にうれしい悲鳴をあげることになる。

世界屈指のコンクールで受賞

彩奈の「すごい可能性を持ったワイン」という手応えは、デキャンタ・ワールド・ワイン・アワードで金賞とアジア地域最高賞「リージョナルトロフィー」の2冠となって証明された。受賞の知らせを受けた彩奈は、すぐに栽培チームのメンバーに連絡して喜びを分かち合ったが、大きなガッツポーズを作りたくなるような興奮よりも、むしろ安堵感の方が大きかったと振り返る。

「2013年は、ここで結果が出なきゃもうダメじゃないかと冗談で口にしてしまうぐらい、余裕がなかったんです。あらゆることをし尽くしたギリギリの状態のときに、『キュヴェ三澤 明野甲州2013』ができました。このワインは今まで造ってきた甲州がすべてかすんでしまうほどの出来で、ちゃんとした人たちに認めてもらいたいと思ってコンクールに応募しましたが、これまではアルコール度数が高くて、樽も強くて、重いワインが賞を獲りやすいと言われていたので、受賞するとは思ってもみませんでした。だから金賞を取ったと連絡が来たときは、ここまで苦しんだ数年間は間違いじゃなかったんだと、ホッとしました」

受賞のインパクトは、すさまじいの一言だった。中央葡萄酒と、彩奈が事前にあいさつをしていた業者に、国内外からの注文の電話が殺到。受賞ワインはあっという間に完売し、ほかのワインも飛ぶように売れた。アワードの影響力を改めて実感した瞬間だった。この追い風はやむことなく、今では中央葡萄酒の海外取引先は19カ国に広がっている。

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