トランプ関税の効果と決定の内側(上)経済的整合性に欠け、貿易赤字解消にも、製造業復活にもつながらない

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貿易収支とは関係なく、すべての国を対象に最低10%の相互関税が課されることになる。対米貿易収支が黒字ではないイギリスやオーストラリア、シンガポール、ブラジル、ニュージーランド、トルコに対しても相互関税が課されるわけだが、その意味は不明だ。経済制裁を課されているロシア、ベラルーシ、北朝鮮が相互関税リストにない理由は説明されていない。算出根拠が薄いばかりか、適用も極めて恣意的である。

アメリカの貿易赤字をめぐる3つの神話

算出根拠、適用方針はさておき、相互関税は貿易赤字の解消に有効だろうか。4月3日付『ニューヨーク・タイムズ』は「Economists say the way Trump calculated tariffs makes no sense(エコノミストはトランプの関税計算は意味をなさない)」という記事で、「ホワイトハウスが“相互関税”を計算するために使った方式はあまりにも単純すぎて、アメリカの貿易赤字を払拭するという目的は達成できないだろう」と書いている。

さらに「アメリカの恒常的な貿易赤字は貿易相手国の不公平は貿易慣行がある」という前提を批判し、不公平な貿易慣行は貿易赤字の要因にはならないと指摘している。

また、ブルッキングス研究所の研究ペーパー3月13日付「The U.S, Trade Deficit: Myths and Realities(アメリカの貿易赤字―神話と現実)」は、アメリカの貿易赤字に関しては3つの神話があるとする。

第1の神話は、「貿易自由化で海外の重商主義政策にさらされたことが貿易赤字の主因」という主張だ。第2の神話は、「ドルが国際準備通貨の基軸通貨となったため、海外の政府に公的準備としてドルを供給する義務を負い、それが貿易赤字の原因になった」。「海外から大量に資金が流入するため、国内で生産能力以上に消費したことが貿易赤字の原因になった」が最後の神話だ。同ペーパーは「貿易赤字は外国とアメリカのマクロ経済の要因がお互いに影響し合う状況を反映したものである」と、貿易赤字を関税で解消する政策は間違いであると指摘している。

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