トランプ関税の効果と決定の内側(上)経済的整合性に欠け、貿易赤字解消にも、製造業復活にもつながらない

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工場の海外移転による失職は地域的に起こってはいるが、アメリカ経済全体を見ると、製造業の雇用喪失の最大の要因は、製造ラインのIT化の進展による生産性の向上だ。事実、GDPに占める製造業の付加価値は大きく変わっていないが、製造業の雇用者数は大幅に減少している。明らかに国内の要因であり、関税とは関係がない。

こちらも、問題の原因の認識が誤っているのだが、それを承知で効果を考えてみよう。製造業の復活は第1次政権でも謳われていた。2017年4月にアメリカ製品を優先的に購入する「バイ・アメリカン政策」を促進するという大統領令を出している。この時は、アメリカ製品を買おうにもアメリカで生産されていない製品が多く、ほとんど成果を上げることができなかった。

今回は、輸入品価格が上昇すれば、アメリカでの生産が価格的に優位になり、アメリカ企業の国内回帰や海外企業の対米投資が増えるという理屈だ。しかし、アメリカ企業が国内回帰を決めたり、海外企業がアメリカでの生産拡大を決めたりしたとしても、新しい設備や工場が稼働するには数年はかかり、即効性はない。

来るのは「ブーム」ではなくインフレ

アメリカで生産されない製品は高い関税を課されても、輸入が大きく減ることはない。輸入価格弾性値は「ゼロ」なので、国内で代替品が生産されるまで関税分が価格に転嫁され、アメリカの消費者は値上がりした製品を買わざるを得ない。

トランプ大統領は「短期では厳しい状況になるかもしれないが、やがてブームがくる」と楽観的に語るが、むしろリスクが高い。輸入品への高関税は短期的にンフレ要因になる。もしインフレが高進する状況になれば、来年の中間選挙で共和党に厳しい判断が下されるだろう。

経済理論に基づいてというよりも、政治的な理由から導入された関税政策で貿易赤字が解消し、アメリカが設備投資に沸いて製造業が復活し、トランプ大統領が勝利宣言、というのは幻想に近い。

中岡 望 ジャーナリスト

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なかおか・のぞむ / Nozomu Nakaoka

国際基督教大学卒。東洋経済新報社編集委員、米ハーバード大学客員研究員、東洋英和女学院大学教授などを歴任。専攻は米国政治思想、マクロ経済学。著書に『アメリカ保守革命』(中公新書)。

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