【朝ドラ】あんぱんのモデル「やなせたかし」が"心優しいヒーロー"描いた背景 幼少期にもらったアンパンの思い出

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やなせの幼少期を振り返るにあたって、外すことができないエピソードがある。本人がこう振り返っている。

「ぼくがまだちいさい子どものとき、遠くの町へ遊びにいって財布を落してしまった。ぼくは何も食べることもできず、第一、電車のキップを買うお金がない。日暮れは追ってくるし、まわりは知らない人ばかり、いったいどうしだらいいのか、死ぬほど心細かったのです」

絶望的とは、まさにこのことだろう。こうなったら家まで歩いて帰るしかない。距離にして12キロばかり。線路沿いに歩こうと駅まで向かった。

しかし、駅に着いたやなせは、しばし呆然と立ち尽くす。

電車の中で食べた優しいアンパンの味

日暮れの駅は慌ただしく、帰宅を急ぐ人たちであふれていた。これだけ大勢の人がいても、困っている自分に気づいてくれる人はだれ一人としていない。そのことがなおさら、やなせを不安にさせたようだ。

「無限とみえるほど大勢の人がいても、それはまったく自分とは無関係で、言葉さえ通じない異国の人、いや、むしろ、人間以外の何かのようにさえみえます」

だが、いつまでもこうしているわけにはいかない。やなせがノロノロと線路への道を探そうとしたときのことだ。

「やなせ君!」

ふいに呼ばれたほうを見れば、友人と友人のお母さんの姿がそこにあった。やなせは安堵と喜びで胸がいっぱいになり、2人の姿にスポットライトがあたり、バラ色に輝いてさえ見えたという。

一緒に帰ることになって電車の中で食べたのが、アンパンだ。その味が格別に美味しく「ぼくは甘美な恍惚感にひたった。幸福は、時として不幸の時に実感する」と述懐している。

そして、このときにやなせは、子ども心にこう考えたのだという。

「本当のスーパーマンは、ほんのささやかな親切を惜しまないひとだ。そういう話をいつか書きたい」

こんな切なる思いが、優しきヒーローのアンパンマンを生み出すことになる。もちろん、幼いやなせはまだ、そんな未来を知る由もなかった。

【参考文献】
やなせたかし『人生なんて夢だけど』(フレーベル館)
やなせたかし『ボクと、正義と、アンパンマン なんのために生まれて、なにをして生きるのか』(PHP研究所)
やなせたかし『何のために生まれてきたの?』(PHP研究所)
梯 久美子『やなせたかしの生涯 アンパンマンとぼく』 (文春文庫)

真山 知幸 著述家

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まやま ともゆき / Tomoyuki Mayama

1979年、兵庫県生まれ。2002年、同志社大学法学部法律学科卒業。上京後、業界誌出版社の編集長を経て、2020年独立。偉人や歴史、名言などをテーマに執筆活動を行う。『ざんねんな偉人伝』シリーズ、『偉人名言迷言事典』など著作40冊以上。名古屋外国語大学現代国際学特殊講義(現・グローバルキャリア講義)、宮崎大学公開講座などでの講師活動やメディア出演も行う。最新刊は 『偉人メシ伝』 『あの偉人は、人生の壁をどう乗り越えてきたのか』 『日本史の13人の怖いお母さん』『逃げまくった文豪たち 嫌なことがあったら逃げたらいいよ』(実務教育出版)。「東洋経済オンラインアワード」で、2021年にニューウェーブ賞、2024年にロングランヒット賞受賞。
X: https://twitter.com/mayama3
公式ブログ: https://note.com/mayama3/
 

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