いしだあゆみさんの死因「甲状腺機能低下症」 過労や加齢のせいと誤解されがちな病気だが、そこにある”隠れた危険性”とは?【医師が解説】
一般的には、適切な治療を受ければそれほど怖い病気ではありません。
それではなぜ、いしだあゆみさんはお亡くなりになったのでしょうか。実は甲状腺機能低下症は放置して進行すると、まれに危険な状態に陥ることがあるので、そのことについてお話しします。
粘液水腫性昏睡(こんすい)の怖さ
甲状腺機能低下症はそのものが直接の死因となることは少ないものの、適切に治療されなかった場合、症状が重くなってしまうことがあります。
特に「粘液水腫性昏睡」と呼ばれる極端な低代謝状態では、全身の臓器機能が著しく低下し、命に関わる事態となります。甲状腺ホルモン不足のため、極度の疲労、低体温、心拍数の低下、さらには昏睡を引き起こす緊急事態となるのです。
報道からは、いしだあゆみさんがこの状態になったのかどうかは不明ですが、日本の全国調査によると、粘液水腫性昏睡の発生率は人口100万人あたり約1人、年間約100人が発症すると推計されています。
この状態に陥った場合の院内死亡率は約3割と報告されており、決して軽視できるものではありません。
粘液水腫性昏睡は特に高齢女性に多く見られる疾患です。日本のデータによると、患者の平均年齢は約77歳で、女性が約3分の2を占めていました。
特に冬に感染症などが引き金となり、発症するケースが多いことが報告されています。体温調節がうまくいかなくなるため、寒い中で活動する場合は要注意の病気です。
この病態の危険性は、代謝が極端に低下することで、全身の機能が著しく落ちる点にあります。
体温調節ができなくなり、極端な低体温に陥ることで、血液循環が悪化し、心拍数が低下します。呼吸中枢の働きも鈍くなり、二酸化炭素が体内に蓄積することで、意識障害が深刻化します。
適切な診断と治療が行われれば意識が回復し、一命をとりとめることは不可能ではありませんが、適切な治療が遅れれば、多臓器不全や心不全を引き起こし、死亡に至る可能性が高まります。
甲状腺ホルモンの極度の欠乏によって心機能が低下し、心不全を発症するケースもあります。また、免疫機能の低下によって感染症が重症化しやすくなり、肺炎や敗血症へと進行するケースも考えられます。
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