フランスにデジタル産業の集積地が現れた 北部の都市リールで進む地域活性化

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「ワカニム」のスタッフ、左から二人目がセルヴァンテス社長。

同社のオリビエ・セルヴァンテス社長は「進撃の巨人」をみて、日本のアニメの虜になったという。フランス人の日本のアニメ好きはすっかりおなじみになった。「クール(格好いい)」ともてはやされている。「少年」や「少女」といった言葉はそのまま、「ショウネン」「ショウジョ」というフランス語として通じる。毎年で開かれる日本文化のイベント「ジャパン・エキスポ」は、コスプレを身にまとったサブカル好きのフランス人で溢れかえっている。

4000人の雇用創出目標掲げるが…

デジタル関連産業の集積「セール・ヌメリック」

ワカニムの動画配信サービスの利用者は約200万人。むろん、利用者はフランス国内にかぎらないが、同国の人口が6500万人あまりであることを考えれば多いといえるだろう。現在はいわゆる「J-POP」のビデオクリップ配信なども手掛ける。

リールと同じノール県のヴァランシエンヌもデジタル産業による地域再生に傾注する。同都市の人口は4万人程度と比較的小規模だが、トヨタ自動車の工場が立地している。

「セール・ヌメリック」はこの4月、ヴァランシエンヌで始動したばかりのデジタル産業の一大拠点。関連企業だけでなく、映像制作、ゲーム制作、デザインなどを学ぶ教育機関や、研究施設(ラボ)なども併設された「産官学」の集積だ。ラボではシリアスゲームの実験なども行う。1万7000平方メートルの敷地内に15のスタートアップ企業が軒を連ねる。投資額は4000万ユーロでそのうち、60%は地元の商工会議所が出資。残りは欧州連合(EU)、国、ノール県のあるノール・パ・ド・カレ地方などが負担している。

「セール・ヌメリック」に入居する学校の授業風景

「産官学」が同居するため、起業家などを育てやすい環境が整っている。インターンシップなどには便利だ。「セール・ヌメリック」に招致した学校のレベルも非常に高いという。1987年の創立以来、3000人の卒業生を輩出。スティーブン・スピルバーグ氏などが創業した映画会社のドリームワークス、ジョージ・ルーカス氏のルーカスフィルムなどで働いたり、ドイツの自動車メーカーのBMWやフォルクスワーゲンでデザインなどの仕事に従事したりしている。フランスに本社を置く、ビデオゲームのリーダー的存在ともいうべきユービーアイソフトにも多くの卒業生を送り込んだ。

こうした評判が広まれば、多くの優秀な人材の確保につながるだろう。フランスで深刻化する若年失業者の受け皿になるかもしれない。ただ、重厚長大型の産業に比べると、デジタル産業の雇用吸収力が乏しいのは事実。

フランス国立統計経済研究所(INSEE)の統計によると、ノール・パ・ド・カレ地方の2015年1~3月期の失業率は12.9%とフランス全体(10.0%)を上回っており、雇用環境は厳しい。「セール・ヌメリック」は4000人の雇用創出という目標を掲げるが、達成できるかは流動的だ。

実はデジタル産業の「クラスター」推進に力を入れている地域は、フランス国内でほかにもある。こうした競争にも打ち勝つためには、「なぜノール県でデジタル産業による地域おこしなのか」というコンセプトを明確にするとともに、レベルの高い学校の存在など魅力を広くアピールすることが欠かせない。

松崎 泰弘 大正大学 教授

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まつざき やすひろ / Yasuhiro Matsuzaki

フリージャーナリスト。1962年、東京生まれ。日本短波放送(現ラジオNIKKEI)、北海道放送(HBC)を経て2000年、東洋経済新報社へ入社。東洋経済では編集局で金融マーケット、欧州経済(特にフランス)などの取材経験が長く、2013年10月からデジタルメディア局に異動し「会社四季報オンライン」担当。著書に『お金持ち入門』(共著、実業之日本社)。趣味はスポーツ。ラグビーには中学時代から20年にわたって没頭し、大学では体育会ラグビー部に在籍していた。2018年3月に退職し、同年4月より大正大学表現学部教授。

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