45歳、活発だった彼女が「安楽死」を選んだ理由 死から逃れるのではなく、引き寄せようとした

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いよいよ死を免れる方法がないと知ったとき、彼女は自分の死を無駄にしないと決めた。古代のルーン文字が刻まれたような病める肺を、トロント総合病院に提供することにしたのだ。病院が臓器摘出手術の態勢を整えて、遺体が午後1時に到着するのを待っている。

遺体はまず病院に運び込まれ、肺の摘出が終わってから葬儀場に運ばれることになっているので、遅れは許されない。わたしはヨランダに希望どおりにすると約束した。彼女の期待を裏切ることはできない。

自ら死を選ぶ患者が増えてきた

ヨランダは身も心も不安はなく、決断の正しさを完全に確信していた。こんな瞬間を、長くはないこれまでの人生で何度も体験したに違いない。彼女は死から逃げるのではなく、むしろ引き寄せようとしていた。

カナダのトロントで長年ホームドクターとして働いてきたわたしは、患者と医師の深い個人的つながりの大切さを実感していた。「揺りかごから墓場まで」という言葉があるが、生まれたときから老いて息を引き取るまで、生涯にわたるケアを提供するのが、ホームドクターであるわたしにとって、理想の医師の姿だった。

しかし、多くの場合、患者が望むような最期のケアを提供することができていなかった。重い病気や認知症を抱えた人びとは、命をながらえさせるケアではなく、「苦しみからの解放」を願っていたからだ。

生きるために最低限必要な行動さえ他者に頼らなければならない状態で、ただ苦痛に耐えて生き続けることを望んでいなかった。わが子のことさえわからない状態で生き続けたいとは思っていなかった。

多くの患者が突然、自ら命を断ってわたしのもとから去っていった。なぜそうしたのか理由はわかっている。自分の手で問題を解決しようとしたのだ。

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