45歳、活発だった彼女が「安楽死」を選んだ理由 死から逃れるのではなく、引き寄せようとした
ハーバード大学の科学研究者であり、スカイダイビングに興じたことも、サンゴ礁の海を深く潜ったこともある。勝ち気な性格の彼女を、友人たちは冗談めかして「ボス」と呼んだ。彼らは異口同音に、ヨランダは望んだものを何でも手に入れる、と言った。
ところがこの2年間で、そんな活発な生き方はすっかり制限され、彼女の人生は治療と医療手続きと痛みで埋め尽くされてしまった。意欲を失い、集中力も衰えた。蓄えはなく、配偶者も恋人もいなかったので実家に戻り、その後、通院の都合で、友人のパティが提供してくれたこの家に移った。
人生がますます自分から遠ざかっていき、彼女は旅立つ決心をした。
そして今日、その時が来た。
自分の「旅立ち」に向けたパーティー
ヨランダは水色の絹のキモノ、縞模様のシャツ、レギンスを身につけ、ベルベットのスリッパを履いていた。移動式の酸素タンクから伸びたチューブの先端が鼻孔に挿入されていた。
部屋の隅にある酸素圧縮器と移動式タンクを結ぶコードはたっぷり長さがあったので、彼女は自分の旅立ちのために開いたカクテルパーティーのホステスとして、リビングルームからダイニング、キッチンへと、開放的な一階全体を移動することができた。
医療介助死(MAiD:Medical Assistance in Dying)では時間を気にする必要はない。いずれにせよ患者は息を引き取るのであって、予定より早くても遅くても問題はない。だがヨランダの場合は、時間を気にしなくてはならない理由があった。