日産の暗闘史が示す「2度目の身売り」の背景 1999年の経営危機時と重なる既視感の正体
20年近く日産に君臨したゴーン氏が東京地検特捜部に逮捕されたのは2018年11月。その後、実権を握った西川廣人社長も2019年9月、株価連動型の報酬問題で辞任に追い込まれた。
ゴーン事件の反省を踏まえ、日産はコーポレートガバナンスを強化するため2019年6月の株主総会後に社外取締役が過半数を占める指名委員会等設置会社に移行した。ところが西川氏の後任社長の選定をめぐり、指名委員会は迷走した。
スナール氏の策略
関係者によると、当時の指名委員6人のうち、3人が専務の関潤氏、2人が三菱自動車COOのアシュワニ・グプタ氏、1人が暫定CEOの山内康裕氏を推薦したという。関氏が社長に決まりかけたが、過半数を取れていないとして、当時まだ約43%出資していたルノーの会長で指名委員でもあったジャンドミニク・スナール氏が反対。当初誰も推薦していなかった専務の内田氏が、ルノー側の推挙により社長に抜擢された経緯があった。
その関係者は「一部役員が関氏に関する根も葉もないマイナス情報を流したことも影響した結果、不透明な経緯で新社長が選ばれた」と指摘する。「能力が低い内田氏のほうがルノーは御しやすいと判断した」とみる向きもある。
社長候補だった関氏はナンバー3の副COOに就いた。関氏はゴーン時代の積極投資による過剰生産能力を圧縮するため、海外工場閉鎖などを行う事業構造改革の責任者となった。だが、日本電産(現ニデック)会長だった永守重信氏によるヘッドハントで、1カ月も経たずに会社を去った。
構造改革が喫緊の課題となる中、当の内田氏をめぐっては、耳を疑うような情報が社内から漏れた。「内田氏は再生や本業そっちのけで、同じ購買部門出身でお世話になった山内暫定CEOの退職慰労金について報酬委員会との調整に奔走している」。
2020年夏に公開された有価証券報告書。新制度に基づく「退任時報酬(退職慰労金)」が、同年2月に退任した西川氏に2億円、山内氏に3億0400万円支払われていたことが記された。就任期間が短い山内氏のほうが金額は大きい。関係者によると、西川氏は慰労金の減額を申し出たが、山内氏へは上積みされたという。
そもそも日産は2020年3月期決算で6712億円の当期純損失を計上し、無配に転落していた。にもかかわらず、退任する役員に巨額の慰労金を支払うこと自体、導入したばかりの社外取中心のガバナンス制度が機能していないことを示している。
続く2021年3月期も4487億円の当期純損失となり、2年で計1兆円を超える赤字を垂れ流した。その後は回復したものの、収益力は競合他社に比べて大きく見劣りした。
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