物価上昇きついのに「デフレ脱却宣言」出ない理由 2001年に政府が発表してからいまだ脱却できず
ここまで説明した指標は、いずれも足元の状況はデフレから脱してきていることを示すものでした。しかし最後のわが国の総需要と供給力との差を捉える(3)GDPギャップはそうではありません。企業などが保有する設備を、労働者が動かすことで製品が作られますが、国内の設備や労働力には限りがあります。
その限界を超えず巡航速度で生産できる量が国内の供給力です。人々が製品を買いたいという需要が供給力を上回ればGDPギャップはプラスとなります。この場合には物価が上昇する方向に向かうのですが、上図の丸印に示されるようにGDPギャップはマイナス傾向が続いています。
政府は消費者物価(生鮮食品を除く総合)を含めてこれらの4指標の改善から単純に“デフレ脱却”を判断するわけではないとしています。ただ、少なくともGDPギャップのマイナス状況では“再びデフレに戻る見込みがない”と判断はできずにデフレ脱却宣言は難しいと見られます。
昨年12月の経済財政諮問会議で、政府は2025年度のGDPギャップは0.4%のプラス転換との試算を示しました。少子高齢化による人手不足などから供給が絞られることが主な理由と説明されています。
また、昨年7月の政府の「年央試算」では、2025年度の消費者物価が2.2%(前年比)、GDPデフレーターは1.6%(前年比)と公表されています。依然、足元では物価上昇に賃金の伸びが追いつかない状況ですが、2025年の春闘に向けて、労働組合から高い賃上げ要求が相次いで発表されています。
日本労働組合総連合会(連合)は、2025年春闘の賃金要求方針について、全体では「定期昇給分を含め5%以上」とすると公表しました。このような賃金の上昇を伴う緩やかな物価上昇が期待されるなかで、2025年はデフレ脱却宣言に向けた環境は整ってくるでしょう。
2025年中はデフレ脱却宣言が難しい
しかし、筆者は2025年中に政府のデフレ脱却宣言は難しく、来年以降になると見ています。わが国がデフレに陥ってから実際に政府がデフレ認識を公表するまで長いラグがあったのと同様にデフレ脱却の宣言にも必要なラグがあると見ているからです。
これはデフレ脱却宣言が出された後の経済、金融政策の行方を考えると想像できる論点になるでしょう。
デフレ脱却宣言が出れば、わが国の経済、金融政策は大きな転換を迫られるでしょう。財政規律が議論されるなか、積極的な財政出動も難しくなるかもしれませんし、日銀も利上げがしやすくなる環境になります。デフレ脱却宣言をするには、政府にとって相応の覚悟が必要です。足元ではいまだ回復が遅れているGDPギャップの持続的なプラス傾向がポイントですが、仮に政府が行った試算どおりに2025年度にプラス転換した場合に、デフレ脱却宣言は来年(2026年)以降に持ち越されると見ています。
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