安保法案可決の参院、振り返れば問題だらけ 「良識の府」の威厳は完全に失われた

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むしろ自民党など与党側の方が、よほどアグレッシブに見えた。与党側は18日の未明に開かれた中谷元防衛相の問責決議案を採決する本会議で、各党による趣旨説明や討論の時間を10分以内に制限することを求める動議を提出して可決。この制約は山崎正昭参院議長の問責決議案や内閣問責決議案を採決する際にも踏襲されたが、鴻池祥肇・参院平和安全保障特別委員長に対する問責決議案では趣旨説明に25分、討論については各人15分に制限された。さらに安保関連法案の採決についても、各討論者の持ち時間が15分に制限されている。

時間で粘ろうとする野党に対し、与党は時間を制限する動議を出して対抗するという形だ。同日の衆院本会議で審議された内閣不信任決議案でも、討論時間は1人15分に制限されている。

ただし趣旨弁明については時間的制限が付されなかったため、登壇した枝野幸男民主党幹事長には「4時間やるつもりらしい」との噂が流れたが、1時間40分余りで終わっている。ちなみに戦後における議場での演説では、2004年6月4日の年金法案改正についての審議の際に森ゆうこ参院議員(当時)が参院本会議場で水を飲みながら3時間1分にわたって行ったのが最長記録となっている。

地方公聴会の報告はどうなった?

「前代未聞」の事件も発覚した。9月16日に横浜で行われた地方公聴会の内容が、平和安全保障特別委員会で報告されていなかったのだ。野党の推薦による公述人の広渡清吾専修大教授と弁護士の水上貴央氏は18日午後5時に参院議員会館で記者会見を開き、この問題を訴えている。

彼らが公述人として公聴会で述べた内容は、本来なら委員会で報告され、議事録として残されるべきものだった。ところが公聴会当日は混乱のために委員会が開かれず、翌17日午前9時45分から開かれた委員会でも報告は行われないまま、安保関連法が採決されてしまったのだ。

「これは憲政史上の重大な汚点だ」「(参院)委員部に確認したが、公聴会での公述人の発言で、記録に残らなかったものはないとのことだ」

ただし彼らは自分たちの意見が記録に残されないことに不満を抱いているだけではない。公聴会を無視するということは、参議院先例280の「派遣委員は、その結果について、口頭または文書をもって委員会に報告する」に明確に反している。そもそも公述人は、議長の要請に基づいて集められる。議長の権威はどこに行ったのか。

会見に同席した福山哲郎参院議員がこう証言している。「実は17日朝の平安特理事会で鴻池委員長が職権で立てた議事の中に、『派遣報告』はあった。しかし与党がああいう暴力的強行採決をしてしまったので、報告がされていない」。

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