トヨタは時空を越えたクルマ文化の醸成にも取り組む。1983年に誕生した5代目カローラの派生車種である「カローラ・レビン」と「スプリンター・トレノ」(通称ハチロク)を題材にエンジン換装/BEV化を行った。ベース車となるカローラ・レビン/スプリンター・トレノには、1.5Lモデルの「AE85」、誉れ高い直列4気筒DOHC「4A-GEU」型エンジン(4A-G)を搭載した「AE86」がある。このAE86と車名から“ハチロク(AE85はハチゴー)”という愛称でも親しまれる。2024年には、ハチロクのエンジン換装モデル/BEVモデルにそれぞれ短時間ながら試乗できた。
トヨタ「AE86 G16E Concept」
エンジン換装モデルは「AE86 G16E Concept」(トレノ)と呼ばれる。生産終了から37年が経過した4A-Gから、GRヤリスなどに搭載されるモータースポーツで鍛え上げた「G16E」型エンジンへ換装。延命策のひとつとして提唱した。
G16Eはトルク重視型のセッティングで、最高出力114PS/7000回転、最大トルク16.3kgf・m/3200回転を発揮。グロス値換算では131PS/18.7kgf・mとなり、各ギア段、減速比ともハチロクのままだがG16Eは熱効率が高く燃費数値は約20%向上。G16E-GTSではメンバーと干渉するのでオイルパンを新設。バランスシャフトを廃止。クラッチハウジングとフライホイールを新設。ラジエーターファンの電動化も不可欠。整備重量は4A-Gと同等。
アイドル直後の盛り上がりが谷を迎えて再び向上する直列3気筒エンジン特有のトルク感が明確で、フジツボ製マフラーは高速域まで絶妙な音を奏でる。圧縮比はターボと同じ10.5だし、各部の調整はこれからとのことだが素直に楽しい。速くないがハチロクとの相性は抜群だ。
トヨタ「AE86 BEV Concept」
BEVモデルは「AE86 BEV Concept」(レビン)だ。4A-Gをおろし、北米トヨタが販売する「タンドラ・ハイブリッド」の駆動モーターとレクサス「NX450h+」の二次バッテリー(18.1kWh)を合体。車両重量1070kg。BEVだが回生制御の類いは付かない。
無駄は多いが走りは大いに楽しい。コンバーター、高電圧分岐ボックス、充電器はレクサス「NX」用で、バッテリー中心位置が後軸上にくるように二次バッテリーを配置した。前後重量配分はハチロクの54:46に対し48:52と理想値に近づいた。AER(All Electric Range:全電気航続距離)目標値は約100km。興味深かったのは、駆動モーターがエンジンのように常に回転し、マニュアルトランスミッションを介して後輪を駆動する点。だから雑にクラッチペダルをつなげばエンストならぬモタストするし、スポーツ走行ではヒール&トゥもできる。疑似サウンドは4A-Gからサンプリングしているだけあり、非常にリアルだった。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら