"引き出し屋"に1300万円で望みを託した母の闘い ひきこもりの息子は遠く離れた地で亡くなった

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また、被告側は書面を通し「(悠一さんは)家族を嫌っていた」「母は過干渉と言っていた」といった旨の主張を展開。もともと問題のある家庭だったと印象付ける狙いがあったのかもしれないが、息子を亡くした母親にここまで言う必要があるのか。私が、裁判のせいでつらい思いをしたのではないか? と尋ねると、松本さんは「悠一が私を恨むのは当然だと思いますよ。いっそ恨んでくれたほうがいいんです」と言った。そしてこう付け加えた。「でもね、母親が嫌いなんて、悠一の本心じゃないってことも、私にはわかるんです」。

いずれ同じような“商売”が復活するのでは

私が松本さんと初めて会ったのは2019年11月。提訴に備え、熊本の研修施設やアパート、就労先を訪ねる調査に同行したときのことだった。古い木造2階建てのアパートに着いたのは夕方。刻一刻と夕闇が深まる中、悠一さんが住んでいた部屋の扉の前で立ちすくみ、肩を震わせていた松本さんの背中を、私は忘れることができない。

悠一さんが餓死状態で見つかったアパートの部屋の前で、手を合わせたり、ハンカチで目頭を押さえたりする松本さん。いつまでも動こうとしない背中が細かく震えていた。2019年11月、熊本(筆者撮影)

今インターネットで検索すると、あからさまに引き出し屋とわかる広告は少なくなりつつある印象を受けた。松本さんをはじめ声を上げた人たちのおかげなのか。しかし、8050問題は何も解決していない。ひきこもりは恥ずかしいこと、本人の弱さや甘えが原因という偏見がなくならない限り、いずれ同じような“商売”は復活するのではないか。

松本さんは裁判で闘ったことに後悔はないという。「やるだけやることが供養になるから」。来年はひきもりをテーマにした映画の製作に協力するのだという。悠一さんに償い続けること。それが、松本さんの生きる意味になっている。

藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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