三菱UFJ「貸金庫事件」で実在した"黒革の手帖" 元行員は「いくら盗んだのか」をメモにしていた

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元行員は窃取した資金を「運用に使っていた」と説明しているという。主にはFX(外国為替証拠金取引)に利用していたようだ。おそらく運用で収益を上げて、こっそり返すつもりで手帖にメモを取っていたのだろう。このメモを頼りに約60人の被害者が判明したとみられる。

問題は、このメモの真実性だ。20人弱の顧客と補償内容で合意していることから、真実性は相応に高いとも考えられる。

一方で、残る約40人とは被害額等についてすり合わせ中だが、一部ではメモにある数字と顧客との認識にズレが生じているという。「もっと金額が多かったはず」、あるいは現金の存在を隠したいからか「もっと少なかったはず」との申し出があるようだ。

メモを残さずに窃取したケースは?

三菱UFJ銀行は、元行員が扉を開けたものの現金が入っていなかったため、何も盗まなかった貸金庫も一定数あるとしている。

先述したように練馬・玉川の2支店では、メモに記載がないとみられる数十人の顧客が新たに被害の可能性や違和感を申し出ている。元行員がメモを付けなかったのか、それとも顧客の思い違いなのか。

こちらは元行員が在籍した期間の貸金庫の開閉ログや監視カメラの映像を確認することで検証作業が進むとみられるが、仮にメモを取らずに現金を窃取したケースがあれば、被害額の確認やすり合わせは極めて難しい作業になりそうだ。

窃取した十数億円の大部分は現金のようだが、現時点で約60人とする被害者の数が今後増えれば、その額はさらに膨らむことになる。

銀行から横領した金で銀座のクラブのママに転身した元ベテラン行員。元行員が持つ手帳には、銀行から不正に入手した顧客のお金に関する情報が記されていた――。

松本清張の小説『黒革の手帖』をなぞるかのようなメモが存在することで被害額の確認作業は進捗しているものの、事件の真相解明にはなお時間を要する。

北山 桂 東洋経済 記者

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きたやま かつら / Katsura Kitayama

1975年群馬県生まれ。日本農業新聞や博報堂アイ・スタジオ(コピーライター)、「週刊金融財政事情」編集長などを経て、2024年4月東洋経済新報社入社。

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