「M-1エリート」時代の幕開け?新たな伝説に期待 20回目のM-1 令和ロマンが史上初の2連覇に挑む

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こうしたドラマは真剣勝負ゆえのことだが、一方でM-1はあくまでお笑いのイベント。変に真剣になりすぎず、笑いとして処理できる面もある。屋敷の「最悪や!」も本人にとっては真剣だったかもしれないが、違う角度から見ると面白くなり得る。ラパルフェの「完コピ」は、それをやったとも言える。その意味でのエンタメ性もM-1の強みだ。

大学お笑いサークルと「M-1エリート」

こうしてM-1は、ドラマ性とエンタメ性がほどよく融合したコンテンツとして他に類を見ないビッグイベントへと成長した。同時に、テレビの世界もM-1に支えられてきた。

現在ならアンタッチャブル、サンドウィッチマン、オードリー、霜降り明星など、M-1をきっかけに注目され、テレビバラエティを担ってきた芸人は、挙げればきりがないほど数多い。局の垣根を越えてM-1が話題になることも多く、M-1を中心にテレビエンタメの世界が回っている感さえある。

だが最近は、そこに変化の兆しもみえる。

昨年優勝の令和ロマンは、テレビに距離を置くことを宣言して話題になった。バラエティ番組に出ないわけではないが、ひな壇芸人から始めてレギュラー番組を増やし、最終的に冠番組でMCをするという"出世ルート"は目指さない。むしろ、まだ誰も成し遂げていないM-1連覇を目標にする。その言葉通り、今年も決勝に進出した。

ここでひとつ注目したいのは、令和ロマンが大学お笑いサークル出身であることだ。

近年、大学お笑いサークル出身の芸人が注目されている。ラランドなどは、そのような経歴が注目されることも多い。ラパルフェも、大学お笑いサークル出身だ。今回の決勝進出者では、ほかに真空ジェシカ、ママタルトなどもいる。

従来、芸人へのルートとしては各芸能事務所の養成機関が主流だった。吉本興業のNSCは有名だろう。

令和ロマンもNSC出身ではある。しかし令和ロマンの場合、大学お笑いサークルの出身であることがより重要な意味を持つように思える。

芸人の高学歴化はいまに始まったことではない。だがこれまでは、やはりM-1決勝に進んだ経験を持つメイプル超合金・カズレーザーのように、クイズなどお笑い以外の分野でその頭脳は生かされてきた。

一方、令和ロマンら新しい世代の大学お笑いサークル出身者たちは、頭脳を漫才そのもののブラッシュアップに向ける。「M-1で勝てるネタ」を分析して実践するのである。M-1という特別な大会を勝ち抜くための緻密な戦略が練られ、スキルが磨かれる。M-1は「研究」されるものになった。

その意味では、M-1は受験に似てきたと言える。M-1ならではのルールや雰囲気に特化した作戦があることにいち早く気づき、準備に時間をかけたコンビが優位になる。

こうして、「受験エリート」がいるように「M-1エリート」が生まれつつあるのではないだろうか。もし今年、令和ロマンによる史上初の2連覇が達成されれば、「M-1エリート」の時代がいよいよ到来するのかもしれない。

太田 省一 社会学者、文筆家

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おおた しょういち / Shoichi Ota

東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学。テレビと戦後日本社会の関係が研究および著述のメインテーマ。現在は社会学およびメディア論の視点からテレビ番組の歴史、お笑い、アイドル、音楽番組、ドラマなどについて執筆活動を続ける。

著書に『刑事ドラマ名作講義』(星海社新書)、『「笑っていいとも!」とその時代』(集英社新書)、『攻めてるテレ東、愛されるテレ東』(東京大学出版会)、『水谷豊論』『平成テレビジョン・スタディーズ』(いずれも青土社)、『テレビ社会ニッポン』(せりか書房)、『中居正広という生き方』『木村拓哉という生き方』(いずれも青弓社)、『紅白歌合戦と日本人』(筑摩書房)など。

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