けれども今回、「裏金問題」「ホワイト案件」などの言葉がトップ10にあったことを踏まえると、ここには物事の明るい面にあえて光を当てようとした意図がうかがえる。
「ふてほど」はユートピアとしての昭和だった
「ふてほど」は、昭和と令和をタイムトラベルを介することでつなぎ合わせ、その文化的なギャップを笑いの種に変える挑戦的な展開が話題を呼んだ。

セクハラやパワハラ、働き方改革、ジェンダー等々、過度な「ポリティカル・コレクトネス」(あらゆる差別表現をなくすこと)にかえって息苦しさ、不自由を感じている現状を軽妙に批評してみせたのである。
だが、それ以上に本作は、昭和的な高揚感を起爆剤にしていることを忘れてはならない。あくまでユートピアとしての昭和であって、解毒され、漂白され、美化された空中楼閣なのである。
このような空中楼閣によって隠されたのは、「裏金問題」「ホワイト案件」などに象徴される、この国の凋落と衰退だろう。
「闇バイト」という言葉を聞かない日はない。「最近、いわゆる『闇バイト』による強盗・詐欺の報道を見ない日はありません。他者への慈しみや堅実な努力といった、日本社会の中で大切にされてきた価値観・道徳観を揺るがしかねないものであり、こうした犯罪を断じて許してはなりません」――これは11月29日の石破茂内閣総理大臣の所信表明演説における治安対策への言及である。
そして、皮肉なことではあるが、このような恐るべき犯罪が生まれる土壌となった、「失われた30年」という中間層が崩壊して下層化していく日本社会をネグレクトし続けた与党のトップが、まるでその後始末に困惑するかのようなことを声高に叫ばなくてはならなくなっている。

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