家族のケアを担う「まち」を作る北九州の挑戦 あるNPOの活動に若者たちが集まる理由

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希望のまちのプロジェクトには大勢の20代、30代の人たちが気持ちを寄せている。抱樸の職員にも若手が多い。職員たちに話を聞いた。

Aさん(26)は、抱樸の「ひとりにしない」支援が好きだと言う。Aさんは不仲な両親の下で育った。Aさんは長女だったことから、無意識のうちに自分の家族は自分がどうにかしなければと思っていた。大学時代に抱樸の炊き出しに参加するようになった。そこでスタッフと交流している「ホームレスのおっちゃんたち」の姿と自分の親が重なった。

「家族のすべてを背負わなくてもいい」と気づいた

「ひとりににしない」という抱樸のような考え方をする人たちがいるのなら、自分が家族のすべてを背負わなくてもいいのだと気づいたそうだ。「急に肩の荷が軽くなった気がしました」とAさん。そしてAさん自身は抱樸に就職し、困難を抱える人たちの相談に当たっている。これが家族機能の社会化だと実感するという。

Aさんは、抱樸の互助会で行われる葬儀に参列するのが好きだそうだ。これまで抱樸は、誰でも参加可能な互助グループを作り、日常の交流を行い、仲間が亡くなったときには皆で看取り、葬儀を行ってきた。考えてみれば、これまでは葬儀こそが家族が中心になって行う、しかも人生に不可欠な営みだった。

互助会での葬儀の様子(写真:抱樸)

Aさんは言う。「みんなで看取って、みんなで見送るというのが、筋が通っていると思います。私が知らない人の葬儀でも、担当した職員が、この人はこういういいところもあったけれど、こういう大変さもあったと涙ながらに語るのを見ると、心が温かくなります」。

その人のありのままの姿を語り、皆で悼む。それは素敵な見送り方に思える。

「なんちゃって家族っていいな」

Sさん(34)は、希望のまちのプロジェクトに携わっている職員の一人。やはり両親は不仲で、離婚をした。自分がそれぞれの面倒を見なければならないと思っていたそうだ。大学を卒業後、非正規の仕事を転々とした。うつ状態になっていた頃、居場所づくりの仕事に携わるようになった。

「私たちの世代は、空気を読むのが上手です。親を喜ばせなければいけないと思って生きている。正解をいつも探している。でも、活動の中で(ホームレス状態を経験したことのある)おっちゃんたちとしゃべっていると、自分は自分でいいのだなと感じます。他人だけど悪態をつきつつ心配し合っている姿に、『なんちゃって家族』っていいなと思います」

さらに次のように続ける。

「私たち20代、30代は、見通しのよい未来は描きにくい。希望のまちに関わることで、自分でも社会が変わるきっかけのお手伝いができるのではないかと期待感を持っている人が職員の中に多いように感じます」

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