空虚な「大阪都構想」、展望なき危ない賭け

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成長の具体策乏しく従来型インフラに依存

都構想は、都知事という一人の指揮官の下に大阪府と大阪市の財布を一つに合わせて迅速に集中的な投資で経済成長を図り、「強くて豊かな大阪」を作るという。それにより、所得を上げ雇用も確保する算段だ。

しかし、成長のための具体策として、維新の会が打ち出しているのは、市営地下鉄の私鉄との乗り入れ、高速道路延伸、大阪中心部から関西国際空港までの高速アクセス鉄道、リニア新幹線の大阪駅誘致、大阪湾岸の港湾整備──など旧来型のインフラ整備に依存している。

これまで多額の財政出動を要する大型公共事業は、バブル崩壊後も懲りずに繰り広げられ、失敗した前例が山ほどある。大阪府は、2035~38年ごろにバブル後に大量発行した府債の最終償還を迎える。後始末はまだ続いているのに、「借金まみれになるのは目に見えている」という懸念を一笑に付すことができるだろうか。

「大阪はバブル崩壊からリーマンショックを経て、日本で最も傷ついた都市」--。ジャーナリストで『大阪破産』、『橋下徹 改革者か壊し屋か』などの著作がある吉富有治氏は、傷の深い大阪への都構想導入に警鐘を鳴らす。「大阪都にしたからといって経済成長するわけではない。行政の仕組みと経済成長は次元の違う話。論理の飛躍がありすぎる。それより大阪市長と府知事を維新の会で押さえ、府市は首長レベルでの反目がなくなった。これで二重行政は解消に向かう。わざわざ時間もコストもかかる大阪都を実現するまでもない」と語る。

大阪都構想について、中身の検討も住民への周知も置き去りにしたまま、ダブル選に突入。批判や疑念は、希代の発信力の持ち主である橋下徹氏の「大阪を変えるんですか?変えないんですか?」のキメぜりふ一言で、すべてひっくり返された。一刻も早く、都構想に関する論議を起こし「大阪都イコール大阪再生」といった幻想から目覚め、現実を直視する必要がある。

(鶴見昌憲 撮影:今井康一 =週刊東洋経済2012年1月14日号)

記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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