英仏海峡の高速鉄道「ユーロスター」30年の軌跡 航空機を圧倒する国際列車、環境問題も追い風
車両は運行開始から二十数年を経た2015年、ドイツ・シーメンス製の最新型「e320」が導入された。
この車両はシーメンスの「ヴェラロ(Velaro)」と呼ばれるシリーズで、ドイツ鉄道の高速列車ICE3(407形)などと同タイプだ。最高時速は300kmで、車内には充電用プラグやWi-Fiが整備され、移動しながら仕事のできる環境が乗客に歓迎されている。
ユーロスターの長年の懸案は乗り入れ先の拡大、とくにフランス、ベルギー以外の欧州大陸諸国への乗り入れだった。パリ郊外のユーロ・ディズニーへの直行便や季節運行でフランスのスキーリゾートへの直行便などは運転していたが、2018年になってようやくロンドン―アムステルダム間の直通列車の運行が実現した(2024年6月から2025年初頭まで、オランダ側出入国施設改良の影響で運休中)。
現在、ロンドン―パリ間は最速2時間16分。同区間でのシェアは8割に達し、航空機より優位に立っている。
他社も参入狙う英仏海峡ルート
一方、欧州大陸のほかの鉄道事業者もロンドンへの乗り入れを狙っていたことがある。過去の最も大きな動きとしては、2010年にドイツ鉄道(DB)が高速列車ICE3を2本連結した編成で英仏海峡トンネルを通過し、セント・パンクラス駅に乗り入れるテスト走行を実施した。
これはドイツからベルギー、フランスを通りトンネルを抜けてイギリスへ乗り入れるための技術・安全面での適合性を調べることを主眼としたテストだった。当日は多くの来賓が招待され(筆者もその場に居合わせた)、「営業運転が近々に行われる」という祝祭感を感じたが、結局現在に至るまで商業運行は実現していない。
また、1990年代にはイギリスと大陸各地を結ぶ夜行列車の運転も計画され、実際に寝台車も造られたが計画は頓挫。宙に浮いた寝台車はカナダに売却されている。
英仏海峡トンネルを経由する国際列車サービスをめぐっては、最近も参入の意志を表明している企業がある。例えば「エボリン(Evolyn)」という新しいオペレーターは2023年10月、「2025年からロンドン―パリ間への参入を目指す」と発表。その直後には、航空会社を抱え、イギリスで鉄道運行の実績を持つヴァージングループも「参入を検討」と報じられた。しかし、英仏海峡トンネルの通過にはさまざまな障壁もあり、なかなか新規参入が実現しないのが現状とみられる。
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