英仏海峡の高速鉄道「ユーロスター」30年の軌跡 航空機を圧倒する国際列車、環境問題も追い風
ユーロスターは運行開始当初、ロンドンのターミナル駅の1つ、テムズ川南岸に位置するウォータールー駅とパリ、ブリュッセルをそれぞれ結ぶ形で始まった。ウォータールー駅にはユーロスター用の「インターナショナル駅」が新たに整備された。車両はフランスのTGVをベースに開発したGEC-アルストム(現・アルストム)製の「TMST」を導入した。
しかし、開業当初はイギリス側には高速鉄道線がなく在来線経由、しかも地下鉄のような第三軌条集電方式で、運行速度も低かった。ロンドンの中心街に乗り入れられなかったのも「欧州からの直通列車にテムズ川を越えさせるのはいかがなものか?」という理由からだ、などとまことしやかに言われていたものだ。
当初、年間の利用者数は約300万人(1995年)に過ぎなかったが、年々増加を続け2019年には約1100万人に到達。コロナ禍で一時は壊滅的なダメージを受けたものの、2022年には約830万人まで回復している。
イギリス側の新線開業で高速化
ユーロスターが1994年に運行を始めて以来、30年の間にはさまざまな変化があったが、最も大きなインパクトがあったのは2007年、ロンドン側の発着駅がウォータールー駅からテムズ川を渡った中心部のセント・パンクラス駅に移ったことだろう。
これは英仏海峡トンネルの出口とロンドンとの間に、高速鉄道専用線「ハイスピード1(High Speed 1、HS1)」が開通したためで、これによってロンドンとフランス側トンネル出入り口間の所要時間が約20分短縮された。
セント・パンクラス駅は大改装が行われ、ユーロスター乗り入れのために出入国管理施設も新たに設けられた。同駅の東側には、スコットランド方面を結ぶ特急が走る東海岸線の発着駅、キングス・クロス駅がある。徒歩圏内には西海岸線の発着駅、ユーストン駅もあり、国内各地への乗り継ぎにも利便性が高い。
ウォータールー駅に発着していた当時は、イギリスへの入国手続きは列車の走行中に審査官がスタンプを持って車内を回るという「原始的」な方法で行われていたが、セント・パンクラス駅に移行後は、出発時に出国手続きだけでなく、目的国の入国手続きまで完了するという「プレ・クリアランス方式」を採用している。
ちなみに、大陸側トンネルの出口はフランス領にあるため、ベルギーやオランダに行く際にも、入国審査官が「ロンドンでフランスへの入国を許可」という奇妙なスタンプを捺してくれる。
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